第11章 4. 持ち主との鉢合わせ
展示室の中は、月明かりと薄いランプの光に照らされていた。
ガラスケースの中には、宝飾品や古文書が整然と並んでいる。
ライクたちは、静かに荷物を元の場所へ戻していった。
ティティは楽器のケースをそっと置き、ルーンはティーセットを棚に戻す。
「……ふぅ。これで全部ですわね」
「じゃあ、さっさと――」
ライクが言いかけた、その時だった。
カチャ……。
扉の鍵が外れる音。
「やば……!」
ルーンが身をひそめ、ミーナが箱を抱えたまま固まる。
扉の向こうから、ローブ姿の男性がランプを手に入ってきた。
年配で、どこかのんびりした雰囲気の人物だ。
「おや……夜にお客さんとは珍しい」
その人は目を細め、荷物を見てにこやかに言った。
「まぁ! わざわざこんな時間にお届けくださったんですね」
ティティが小声でライクを見上げる。
「……もしかして、バレてませんの?」
「そういうことにしておけ」
ライクはすぐに笑顔を作り、軽く頭を下げた。
「ええ、昼間はお邪魔できなかったので」
男性は嬉しそうにうなずく。
「まぁまぁ、どうぞお茶でも。焼き菓子もありますよ」
「……!」
ティティの耳がぴくっと動く。
「いただきますわ〜♡」
展示室の隅、持ち主がお茶の準備をしている間に、ライクはそっと後ろを振り返った。
――その瞬間、廊下の影に、カインが立っていた。
外套の裾を揺らし、こちらに短く視線を送る。
「……任せるぞ」
声はほとんど聞こえないほど小さかったが、ライクには十分だった。
うなずき返しながら、ふと昔の光景がよみがえる。
――まだ騎士団と勇者隊が同じ任務に出ていた頃。
国境の砦を守る任務で、敵に回り込まれたとき、
カインは迷わず部下をかばい、撤退路を作った。
あの時、ライクは――
(……オレはただ、剣を振るっていただけだったな)
思い出の中で、自分の剣は光らなかった。
それでも、背中に感じたカインの存在が、あの場で動けた理由だった。
「おにーさま?」
ティティの声で、現実に引き戻される。
「……なんでもない」
ライクは笑ってごまかし、カップを受け取った。
「こういうのも、たまには悪くないな」




