第11章 2.お宝はクセ者揃い
夜の王都・貴族街。
街灯の光が、石畳にぽつぽつと円を描いている。
ライクたちは、カインの部下が借りてきた屋敷の一室に案内された。
その部屋――いや、部屋の中の荷物を見た瞬間、全員が同時に声を漏らした。
「……これは、予想以上にクセが強いですわね」
ティティが杖を抱えながら、目をまん丸にする。
部屋の中央に立つのは、動く肖像画。
描かれた老紳士が、こちらをじろっと見ては鼻を鳴らす。
「足音がうるさいぞ、若造ども」
「おい、誰が若造だよ!」
ルーンがしっぽを逆立て、絵に向かって言い返す。
その隣にはしゃべる楽器の山。
ハープは勝手に調弦し、ドラムは小さくリズムを刻み、トランペットが不意に「パァーン!」と鳴らす。
「うわっ! びっくりしますの!」
ティティが耳を押さえ、ミーナはくすくす笑って楽器に向かってお辞儀をした。
「こんばんは〜。静かにしていただけると助かります〜」
さらに棚の上では、自走するティーセットがカタカタと移動していた。
銀のポットがこちらに寄ってきて、取っ手を小さく揺らす。
「……あの、もしかしてお茶をいれてくださるつもりですの?」
ティティが恐る恐る聞くと、ポットは誇らしげに注ぐ仕草をしてみせる。
だが注ぎ先は、ティティの靴。
「ちょ、やめて! そこは飲み物じゃありませんのーっ!!」
「これは……普通の荷物じゃねぇな」
ライクは部屋を見渡しながら小声で言った。
「ふふ……なんだか賑やかで楽しいですね〜。でも、このままだと夜の街で目立っちゃいそうです〜」
「よし、まずは“静かに運べる状態”にしよう」
ライクの号令で、全員が作業に取りかかる。
ティティは楽器に静音魔法をかける。
ルーンはティーセットをひょいひょい捕まえて箱に詰める。
ミーナは肖像画と目を合わせ、やんわりと説得する。
「持ち主さんのところに帰りますよ〜。きっと、喜ばれます〜」
「……ふん、しかたないな」
老紳士はそう言いながらも、どこか嬉しそうに見えた。
作業の手を止めたティティが、ふっと笑う。
「なんだか……この子たち、ぜんぶ“帰りたがってる”気がしますわね」
「持ち主のところが、一番落ち着くんだろうな」
ライクの言葉に、全員がうなずいた。
こうして、クセ者ぞろいの荷物たちは無事、返却準備が整った。
あとは夜の貴族街を抜けて、こっそり屋敷に戻すだけ――
だが、このあと彼らは「静かに済ませる」という目標が、どれほど難しいかを思い知ることになる。




