第10章 6.夜のセンターにて
王都の空に、淡い群青が降りてくる頃。
センターの庭先には、一日かけて手を加えられたニャンフレア号が静かに佇んでいた。
炎の足跡がゆらりと輝き、外装には“ニャンフレア号”の名がしっかりと刻まれている。
ほんの少し、馬車も誇らしげに見えた。
「ふぅ〜……やりきったですわ……」
ティティが芝の上にぺたりと座りこみ、スカートの裾を払う。
「クッションふわふわだし、星空天井も完璧。あとはティティラウンジ専用スペースを……」
「さすがにそれは明日でよくない?」
ライクが苦笑しながら、隣に腰を下ろす。
そのあと、ルーン、ミーナ、グレンも自然と集まり、みんなで馬車を眺めた。
「これで、次の依頼もへっちゃらですわね〜!」
「オイラのひなたぼっこゾーンもバッチリあるし!」
「旅に出る前の静けさって……好きです〜」
「……バランスも、悪くない」
それぞれの言葉が、夜気に混じって消えていく。
しばらくの沈黙のあと、ライクがぽつりと呟いた。
「……こうしてると、不思議だな」
「なにが?」
「自分たちで立ち上げたセンターで、仲間と仕事して、馬車も手に入れて……」
炎の足跡に照らされた馬車を見ながら、彼はゆっくり言葉をつなぐ。
「少しずつだけど……ちゃんと前に進んでる気がする」
その言葉に、ルーンがにんまりと笑ってしっぽを揺らした。
「そりゃそうだろ。オイラたちは、夢を乗せて走るセンターなんだからな!」
「……夢、か」
ライクは馬車の荷台を見上げた。
名前もなかったこの馬車が、今は“ニャンフレア号”として、自分たちの未来を運んでくれる。
そこに積むのは、大きな依頼かもしれないし、ちいさな願いかもしれない。
でもきっと、それは誰かにとって、大切な“なにか”だ。
「荷物でも、希望でも、仲間の笑い声でも――全部、運んでやろう」
「……わたくし、名言出ましたって今書きとめましたわ♡」
「ちょっと照れるな……」
「神さまも、にこにこしておられます〜」
「……明日はタイヤ、もう一度見とく」
「グレン、夜は休もう!?」
穏やかな会話が、夜空に溶けていく。
そして、その傍らには――
静かに眠るように、でも確かに“生きているような”気配で、ニャンフレア号が佇んでいた。
ほんのすこしだけ、誇らしげに。




