第10章 5.名づけ会議、混迷す!
「ということで、名前ですわよ名前っ!」
昼下がりのセンター。
馬車のロゴ(燃える肉球)をうっとり眺めながら、ティティがパンと手を叩いた。
「この子にふさわしい名前を、今ここで決定いたしますのっ!」
「決定って、いつの間に会議始まってたんだ?」
ライクが苦笑まじりにツッコむ。
「名前があるって、たいせつですわよ?
名付けられた瞬間から、それはもう仲間なんですの♡」
「……ちょっとわかるかも。名前があるって、いいもんな」
ルーンがぽそっと言ったあと、咳払いして勢いよく手をあげた。
「じゃあまずオイラから!
この馬車、オイラの足跡ロゴが採用されたんだし、名づけ親はオイラってことで――“ニャン速号”!」
「ダサかわいい……けど、響きがちょっと急便寄りですわ!」
「じゃあ“ニャンモービル”はどうだ!? ちょっと戦闘力高そう!」
「それはもう、馬車じゃなくて乗り物兵器ですわ!」
「んー……“ネコカート”」
「カート!?」
ティティがツッコミを入れる隣で、ミーナがふんわりと笑っていた。
「わたしは、“ひだまりの馬車”って、いいと思いました〜」
「なんか優しすぎて詩集のタイトルみたいですわ!」
「……“荷物一号”」
「グレン殿、もう少しだけ情緒ってものを……!」
意見はまとまらず、空気はどんどんカオスに。
「オイラ的には“ニャン”は絶対ほしい! ロゴに足跡あるんだから!」
「ティティ的には“フレア”は外せませんわ! 燃えてるんですのよ!?」
「“ニャン”と“フレア”……」
ライクがポツリと呟いたとき、ティティの目が輝いた。
「……合体! そうですわ、“ニャン”と“フレア”を合わせて――」
「ニャンフレア号っ!!」
「おおおおっ!」
ルーンがしっぽをぶんぶん振って飛び跳ねる。
「えっ、それいい! オイラ的にもイケてるし、センター的にもアリだし!」
「ネーミングに悩んでた時間、返してほしい気持ちはありますけど……響きは完璧ですわ♡」
「神さまも、“にゃん……ふれあ……”って笑っておられました〜」
「……気に入った」
グレンが一言だけ言い、みんなが一斉に振り返る。
「じゃあ、決まりだな」
ライクが馬車の前に立ち、あらためて言葉にする。
「こいつは今日から、センターの“仲間”だ。名前は――ニャンフレア号」
ぱちぱちぱちっ、と全員で拍手。
ティティが魔法の筆を握りしめ、外装の左側にロゴと一緒に名前を描き込む。
炎の足跡の下に、可愛いけれど少し勇ましい文字が光る。
ニャンフレア号
——夢を運ぶ、炎のしっぽ。
「よーし、今後はこの子でどんな依頼でも引き受けますわよ〜!」
「走る準備もオイラはできてるぜ!」
「まずはメンテナンスから〜」
「前輪、もう一回締め直す」
「みんなやる気満々すぎない!?」
新しい仲間ができた日。
その馬車には、まだ知らない冒険と、まだ見ぬ引っ越しと、
そして、ちょっとした夢が積みこまれていた。




