第10章 4.炎の足跡、浮かびあがる
カスタムをひととおり終えたあと、センターの庭先には静かな風が吹いていた。
工具や布切れ、使い終わった魔法の筆が、陽の光を受けてきらりと光る。
「……だいぶ、仕上がってきましたわね」
ティティが荷台のふちに腰かけ、ぐーっと伸びをしながら満足げに呟いた。
「オイラの抜け道は封鎖されたけどな……」
ルーンが荷馬車の影でしっぽをしょんぼりさせている。
「神さまは“抜け道より安全経路を”って……言ってました〜」
「……設計ミスだったな」
グレンがぽつりと呟く中、ライクは黙って雑巾で床板を拭いていた。
ふと、荷台の中央あたりに、何かの跡がついているのに気づく。
「……ん?」
よく見ると、それは丸い跡が四つ、ちょんちょんと並んでいる。まるで――
「肉球、だな」
「ひゃっ!? ば、ばれたっ!?」
ルーンが飛び上がり、馬車の後ろからひょこっと顔を出した。
「ちょっとだけ……いや、結構乗ってたかも……けど、足洗ってからにしたし!」
「でも、形くっきり残ってるぞ」
「……ひなたぼっこ用のベストポジションだったからさ……つい……」
そのとき。
ティティがするするとライクの隣に歩み寄り、じっと足跡を見つめた。
「この形、この位置、この――肉球!」
「ちょ、ちょっと、なにキラキラした顔してんの!?」
「この足あと、燃やして残しちゃいましょう♡ ぽわっと光らせて、センターのマークにするんですの!」
「ま、マーク!? オイラの足あとが!? 責任重くない!?」
「いいと思います〜。かわいいし、あたたかいし、なんか元気出ます〜」
「……あり」
グレンがぽつりと一言だけ言った。
ティティはにっこり笑って魔法の筆を構える。
ふわりと光の炎が生まれ、足跡の輪郭を柔らかく縁取った。
パチ、パチッ……と、小さな火花が舞い、
炎のように光る猫の足跡が、床板の中心に刻まれる。
まるでそこが、はじめからそうなる運命だったかのように。
「……これ、ロゴにするか」
ライクが静かに言った。
「えっ、ほんとに!? オイラの足跡、正式採用!?」
「“元・勇者引っ越しセンター”の看板にするって、ことですわ♡」
「商標登録、必要か?」
「だからそれはもうちょっと先の話だってば」
笑い声が庭に広がる。
馬車に灯ったその小さな“炎の足跡”は、これから始まる長い旅のはじまりを、優しく照らしていた。




