第10章 3.カスタム大会、開幕!
「さあさあ皆さま〜! 本日よりこの馬車は、わたくしたちのものですわ!」
ティティが玄関マットの上に立ち、なぜか自作の“開所式リボン”を張っている。
「それじゃないと始まらない感じだったっけ?」
「これから始まるのは、“夢の改造計画”ですわ〜!」
馬車がセンターの庭先に到着したその日から、引っ越しセンターは突如として“内装工房”と化した。
まず最初に動いたのはティティだった。
「天井は星模様に決まりですわね! これで夜もおしゃれで快適!」
魔法の筆で馬車の内側をくるくると描きながら、
「ここはオリオン座……ここはティティ座……」と勝手に新星座まで生み出していた。
「“ティティ座”はさすがに自己主張強すぎじゃないか?」
「それだけ貢献してますもの♡」
続いてミーナ。
彼女はシートの布地を丁寧に手縫いで張り直しながら、座面の裏に小さな聖印を刺繍していた。
「旅のお守りに〜。ちゃんと、道に迷いませんようにって……ふふふ」
さらに、荷台の角には小さな祈りの鈴まで結びつけている。
「……おごそかすぎないか?」
「落ち着く雰囲気って大事です〜」
ルーンはというと、いつの間にか馬車の下に潜り込んでいた。
「よしよし、隠し引き出し一号、完成っと!」
「勝手に改造すんな!!」
「いいじゃん! 工具入れたり非常食入れたり! あと非常用カリカリ!」
「最後の用途が主目的だろ!」
さらに彼は床板の隙間に小さな出入り口をこっそり作り、
「オイラの抜け道。緊急用だから!」と得意げに言っていたが、
グレンが無言で板を打ちつけて封印した。
「お、おい! オイラの通気口が!」
「……荷崩れの原因になる」
そしてグレンはというと、誰よりも黙々と“実用性の鬼”だった。
•車輪の締め直し
•フレームの魔導補強
•荷物固定用の金具の設置
•なぜか誰も頼んでないのに“耐震構造”まで組み込む
「……これ、魔法衝撃にも耐える構造じゃね?」
「引っ越し業界のレベル超えてますわね……」
数時間後。
馬車の外装はまだ地味なままだが、
中だけは**「聖域×星空×隠し収納」**というよくわからない多重仕様に仕上がっていた。
「よし、あとはロゴと名前ですわね♡」
ティティがにこにこしながら筆を構える。
「まだ決まってねぇだろ名前!?」
「名前があってこそ、魂が宿るんですのよっ!」
「……まあ、それもそうだな」
ライクは外から馬車を見上げた。
古くて地味なこの馬車が、少しずつ“自分たちのもの”になっていく――
そんな実感が、静かに胸に染みていた。




