表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・勇者引っ越しセンター  作者: Kahiyuka
第10章 あの荷台に夢を乗せて
60/126

第10章 2.はじめての馬車探し!

翌朝、王都の馬車街。

木製の車輪が軋む音、馬のいななき、売り手たちの威勢のいい呼び声が交錯する活気ある通りに、

「元・勇者引っ越しセンター」の一行が足並みバラバラで現れた。


「うわ〜……なんかこう……馬車の市場っていうより、魔導見本市って感じですわね〜!」


ティティはキラキラした目で通りを見渡す。目に入るのは――

•空飛ぶ馬車(要:毎日魔力補充)

•ドーム付き完全防音馬車(コンサート仕様)

•前後に馬がついてる両頭馬車なぜ


「おい見ろよライク! この馬車、側面がぜんぶ鏡だぞ! オイラがどの角度でも超イケてる!」


「おまえ、昨日“猫の人”って言われてたよな……」


「そうだよ! だから“ルーン様の馬車”って呼ばれるようにここで名を上げんだよ!」


「それはまあ……がんばれ」


「これはなんですの!? 馬が六頭も!?」


「いや、それたぶんホログラムですわ。魔導式看板車……って書いてありますわね……」


「このお舟の形の馬車、魚の群れみたいで可愛いです〜。でも道で回れない気がします〜」


「……積載量、ゼロじゃないか」


わちゃわちゃと歩きながら、すでに各自の方向に散りかけるメンバーたち。


「おい! 勝手に乗るな! ルーン、店の人に謝れ!」


「オイラじゃない! オイラのしっぽが勝手に!」


「ティティ、値札だけ見て大声出すのやめて! “何この価格!? 魔王城より高いですわ!”って叫んでたから!」


「だって高いですものっ!」


「ミーナ、それ魔導エンジンじゃなくて人力式です!」


「……たしかに回し車っぽいと思いました〜」


ライクは頭を押さえつつ、一人で地味な馬車の列を見て回る。

彼が気にしているのは、荷台の広さ、車輪の軸、構造の安定性――実用性ばかりだ。


「……なあ」


しばらくして、グレンがぽつりと立ち止まった。

彼が無言で指差した先には、通りのはじっこに置かれていた一台の地味な馬車。


見た目は古い。塗装は剥がれ、フレームにも年季がある。

だが、しっかりとした足回りと、必要十分な荷台の広さ。


「なにこの……妙に“現実”な馬車……」


ティティが近寄り、扉をそっと開ける。

中は思ったより広く、床板は磨かれており、木の香りがほのかに残っている。


「古いけど、使いこまれてるな。手入れも悪くない」


ライクが荷台を撫でながら呟く。


「オイラ、ちょっと乗っていい?」


「跳ねるなよ」


「わかってるって〜……おっ、しっぽが全然引っかからねぇ! この天井高、オイラ的に超ポイント高ぇ!」


「しっぽ基準……」


ミーナが微笑みながら、馬車の後ろで軽く祈る。


「この馬車、守護の気配があります〜。きっと、いい旅をしてきたんですね〜」


「う〜〜ん……地味ですけど……愛着、湧きそうですわね……」


ティティはしばらく悩んだふりをしていたが、すでに内装カスタムの妄想が始まっている。


「決まり、かな」


ライクが一歩前に出て、馬車の前部を軽く叩く。


「この馬車を、センターの“足”にしよう」


「賛成〜〜っ!!」


ぱちぱちぱち、と拍手が起きる。

グレンも無言で一度うなずいた。


「では皆さん、帰ったらカスタム大会ですわよ! 星の天井、ふわふわクッション、オイラのひなたぼっこ台座も用意する予定です!」


「ちょっと待って、まず掃除してからにしよう」


「おやつタイム、込みです〜?」


「工具貸して。フレーム補強する」


こうして、引っ越しセンターの“仲間”が、ひとり分、いや一台分、増えた。

それはまだ名前のない、中古の荷馬車。

けれど、その中にはもう、夢が少しずつ詰まり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ