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元・勇者引っ越しセンター  作者: Kahiyuka
第1章 はじまりは引っ越し屋から
6/41

第1章 6.死者にも日当たりを(後編)

翌朝。

王都南区の丘陵地。


指定された“日当たりのいい新居”は、かつての霊廟を改築したものだった。


石造りのアーチと大理石の階段。

だが周囲には草花が咲き、鳥の声が聞こえる。


空は高く、地下納骨堂の閉塞感とは正反対だった。


ティティは草むらの上でぐるぐる回っていた。


「ひろ〜い! あかる〜い! ティティここに住みたいですわ〜!」


「おまえはまず、“爆発が起きにくい”場所を選べよ……」


ライクがため息まじりに階段を見上げる。


「……しかし、これが墓だったってのか?」


ミーナが手元の古文書を確認しながら頷く。


「記録では“静養祈念室”とあります〜。高位の僧侶が、祈りの合間に日向ぼっこするための場所だったとか」


「それもう、半分サンルームだろ……」


午前の日差しの中、一行は慎重に搬入を始めた。


まずは蔵書。

ミーナが魔法陣を刻んだ布を敷き、浄化と定着の魔法を発動する。


「清浄たれ、紡がれし言葉よ……」


結界がやわらかく空気を包み、リッチの古文書を“外界の汚れ”から守る。


「これで数年は紙の劣化が抑えられます〜」


「さすが僧侶……そのへんの清掃魔法より信頼できるな」


続いて、魔導具と標本。


ティティは小さな指で細かい器具を器用に持ち上げ、並べては唸っていた。


「うーん……これは“ぴかぴかする玉”、こっちは“さわるとジーンってする石”ですわ。あとこれ、“なんかしゃべるやつ”!」


「説明が全部ざっくりすぎる!」


「だいじょぶですの、ティティちゃんと順番に並べてますから!」


たしかに並びは妙に整っていた。

道具の反応特性に合わせて、発熱系と振動系を離すなど、意外なセンスを発揮している。


「魔法貴族の末裔は伊達じゃないってことか……」


問題は、骨だった。

山積みの木箱の中には、“誰かの一部”がたくさん詰まっていた。


ラベルはあるが擦れて読めないものも多い。


ティティがひとつの箱を開けて首をかしげる。


「これ、“て”と“あたま”がいっしょになってますの。……“なかよしセット”って書いといてもいい?」


「絶対だめだ! ちゃんと名前で管理しろ!」


グレンは黙々と木箱を運んでいたが、その中のひとつに混ざっていた石がふと目に留まった。

それはわずかに光を放っていたが、他の品と混ざって乱雑に詰められている。


グレンは少しだけ眉をひそめ、周囲を確認してから箱の中身を整え、

その石を他の魔導具とは別に取り出して、ミーナのもとへそっと差し出した。


「……これ、ただの装飾じゃない。わたしが調べますね〜」


ミーナが柔らかく微笑みながら受け取り、光を透かして祈りを込める。


結界がふわりと広がり、石の輝きが少しだけ落ち着いた。


「あら……これ、“だれかのきもち”が残ってます〜。大事にしないと、かわいそうです〜」


グレンは小さく頷くと、黙ってまた次の木箱を担ぎ上げた。


昼前には作業はすべて終わった。


ラストの木箱を降ろすと、リッチは階段の上に立ち、陽の光を浴びる。

目の奥の魔力が、いつもより少しだけ明るく見えた。


「……眩しいな。だが、悪くない」


その姿を見て、ティティがぽそっとつぶやいた。


「……かっこいいですわ。がいこつさんなのに、きらきらしてる」


「言ってること矛盾してるけど、まあ……気持ちはわかる」


リッチは静かに歩み寄り、小さな袋を差し出した。


金貨の重み。音は柔らかく、しかし確かな“成果”の証。


「契約通りの報酬だ。……期待以上だったよ、君たちは」


ライクが受け取りながら、少し肩をすくめた。


「そりゃどうも。“骨が折れる”仕事だったよ」


「うまく言ったつもりだろうが、骸骨の前で言うと、皮肉に聞こえるな」


「……すみませんでした」


リッチはくすりと笑い、ライクたちに背を向ける前に、ふと立ち止まった。


「……そうだ。紹介したい依頼人がいる」


「誰だ?」


「それはまだ言えない。だが、君たちのことは伝えてある。もし向こうが興味を持てば……きっと連絡が来るだろう」


「……了解。“センター”として、受けて立つよ」


リッチの眼窩(がんか)が、また(ほの)かに笑ったように見えた。


「ではまた。……私の友人たちも、君たちの働きに感謝している」


その言葉のあと、丘を吹き抜ける風が、木々の葉を揺らした。


骨の入った木箱のひとつが、きぃ、と小さな音を立てたようにも聞こえたが――

ライクはあえて、見なかったことにした。


帰り道。

ティティが馬車の上で両手をぶんぶん振りながら叫んだ。


「ねぇねぇ、次はどんな依頼ですの? もしかして、もふもふモンスターのおうちおひっこし?」


「いや、逆に“ぐちゃぐちゃモンスター”かもしれないぞ」


「えーっ! それでもティティ、なでなでしたいですわ〜!」


「やめろ! 依頼人を“ペット扱い”するな!!」


グレンは手綱を握りながら無言で笑みのような目をした(気がした)。

ミーナはひとり、小さく祈っていた。


「神さま、次の依頼ができれば……もう少し静かなものでありますように……」


馬車の車輪が石畳を叩き、街の音がだんだんと近づいてくる。


“元・勇者引っ越しセンター”。

その名のもとに、また新しい仕事が動き出す――。



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