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元・勇者引っ越しセンター  作者: Kahiyuka
第10章 あの荷台に夢を乗せて
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第10章 1.ちょっとだけ有名になってきたセンター

王都の南端、煉瓦と石畳が交差する小さな通り。

その角にある古い宿舎の一階が、「元・勇者引っ越しセンター」の拠点である。


「今日の相談、これで三件目ですわね〜♡」


ティティが椅子の背もたれに逆向きでまたがり、くるくるとスプーンを回しながら言った。


「たしかに、最近ちょっと増えてるな」


ライクが帳簿を閉じ、ふぅと小さく息をつく。


「“ちょっと”じゃねーって。オイラ、昨日子どもに囲まれて言われたんだぞ。“猫の人だ!”って」


ソファで寝転がっていたルーンが、しっぽをピンと跳ね上げた。


「猫の人!? ちがうだろ、オイラは“ルーン様”だぞ!? 猫って言うなら“様”つけろよなっ!」


「“猫様”って……なんか敬う対象がちがう気がしますわ」


ティティが吹き出しながらティーカップを置いた。


「でも、覚えてもらえてるってことは、それだけ目立ってきた証拠ですわね♡」


「オイラ的には“カッコいい盗賊さん!”とかがいいのに……!」


「ふふ……でも、神さまはちゃんと見ておられますから〜。しっぽの働きぶりも」


ミーナは今日もほんわか笑顔で、湯気の立つスープ皿を各自の前に並べている。


「……がんばってるのは主にグレン殿ですけど〜」


「ん」


コップを拭いていたグレンが、無言でうなずく。いつも通りの反応だ。


「けれどまあ、じわじわと……軌道に乗りはじめてる感はありますわね〜」


ティティは窓の外を見ながら呟いた。


外では、通りがかりの商人たちが話している。


「ほら、あそこ。“元・勇者”って看板の引っ越し屋。最近けっこう評判らしいぜ」


その声が、かすかに室内にも届いた。


「……このまま仕事が増えていくなら、そろそろ考えてもいいかもな」


ライクが立ち上がり、帳簿を抱えたまま仲間たちを見渡す。


「えっ?」


「……まさか」


「まさかまさか……!」


「馬車、買うか」


「っっっきゃああああああああっっっ!!」


ティティの歓声が炸裂した。

椅子ごと後方に吹き飛び、壁にぶつかるリボンの舞。


「ついに来ましたわっ! 我らがセンターのマイ馬車様! わたくしたちの魂を運ぶ四輪っっ!!」


「やったーっ! オイラ専用の“ひなたぼっこスペース”作っていい!? カスタム許可!? 許可!?」


「神さまが……“装備を整えるときです”って仰ってます〜」


「……前輪は、太いほうがいい」


「いやちょっと待って、予算は? 今月の収支バランスは?」


ライクの現実的な声は、完全に盛り上がった空気に飲み込まれていった。


「では、明日! 朝いちばんで馬車街へ!! 理想の一台を探しますわよ〜!!」


ティティがテーブルのスプーンを旗のように掲げ、即席の勝利ポーズを決めた。


こうして、「ほんの少しだけ有名になったセンター」は、

自分たちの足で“夢”を乗せる一台を探しに出ることとなった。

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