第9章 5.引っ越し内容がスケール違いですの!
「……これ、ただの書斎じゃありませんわよね?」
ティティの声が、半分引きつっていた。
ルグロスに案内されて一行が辿りついたのは、旧魔王城の書斎――だったはずなのだが。
ドアを開けた先にあったのは、吹き抜け三階建て、球体構造の大書庫。
壁一面に本がぎっしり詰まれ、階段と通路が上下左右にせり出し、空間が曲がっているようにすら見える。
「すごーい、まるで“読まれるために本が集まってきてる”って感じです〜!」
「それ、本当にそのとおりでございます」
ルグロスがうなずく。
「この書斎には、“興味をもった本が勝手に飛んでくる”という補助魔法がかけられておりまして。
本を探す手間が省ける、便利な機構です」
「いやいや、勝手に飛んできちゃだめでしょ!?
オイラ、顔に辞書ぶつけられる未来が見えるんだけど!」
「書斎の魔法は、現在“半分だけ”制限されています。人に当たらないようにはなっていますので、ご安心ください」
「“半分だけ”ってとこがいちばんこわいですのーーっ!!」
ルグロスは続ける。
「書斎のほかに、玉座の間と倉庫2区画も搬出対象です。
とくに玉座の間は、“王の気配が残っている”ため、少し動作にクセがあるかと」
一同が玉座の間に入ると、空気がぴりっと変わった。
中央には黒曜石と魔銀でできた豪奢な玉座がそびえ立ち、天井には竜の彫刻が巡っている。
「うわぁ……“魔王”って感じですわ……でも、ちょっとカッコいい……」
ティティがぽそっと言ったその瞬間――
ギィイ……ン……。
玉座が音もなく回転し、目の前に向き直った。
「えっ!? なんで!? 見ただけですのよ!?!」
スチャッ。
肘かけが持ち上がり、背もたれがゆっくり傾き、玉座が“歓迎ポーズ”を取る。
「完全に“座れ”って言ってますのーーーっ!!」
「前世の王が座りたがってるのかもねぇ……」
「そういう想像しないでくださいまし!!」
倉庫は倉庫で、さらに厄介だった。
•箱に見せかけた“擬態スライム”が寝ている
•武器の棚が「主以外には開かない」と自己主張して黙秘を始める
•魔法陣の入った巻物が勝手に開いて“自己紹介”を始める
「はい、こんにちは! 私は“大爆発の書”です! 開くと元気にドカン! よろしくお願いしますね!」
「よろしくされたくないですのーーーーっ!!!」
「いやこれ……引っ越しっていうより、“脱出ゲームの片づけ”じゃね?」
「むしろ遺跡調査に近いかもしれん……」
ライクがため息をつきながら、それでも剣ではなくメジャーと荷運び用の魔導札を取り出す。
「よし……やるぞ。仕事は仕事だ。どんな荷物でも、俺たちが運ぶ。
たとえそれが、“動く玉座”でも、“しゃべる巻物”でもな」




