第9章 1.魔法少女(自称)、注目されすぎですの!
朝の“元・勇者引っ越しセンター”は、異常だった。
「次の依頼人さま、お入りくださーい!」
「順番守ってくださーい! 押さないでくださーい!」
「占いはやってません! あと呪いもやってません!」
玄関の外にずらりと並んだ列は、引っ越し依頼人……ではなかった。
魔法を教わりたい者、結婚式を祝ってほしい者、名前をつけてほしい者、神のお告げを聞きたい者まで、カオスの大行列だった。
「……わたくし、ただ一回、魔法を撃っただけなんですのよ……?」
ティティはカウンターの内側でぷるぷる震えながら、スカートの裾を握りしめていた。
「そんなに派手だったっけ、あの魔法?」
ルーンが新聞を読みながらソファで丸くなる。
【王都南東で巨大魔法爆発。発動者は少女か?】
【詠唱なし・白金色の光・山一つふっとぶ火力】
【“これは神の力だ”との証言も(近隣のパン屋主婦)】
「どれもわたくしじゃありませんの!
ていうかこのイラスト、誰ですの!? めちゃくちゃ美化されてるじゃありませんの!!」
壁に貼られた似顔絵ポスターは、後光が差し、羽が生え、うっすら浮いている。
名前は伏せられていたが、どう見てもティティだった。
「えへへ〜、でもちょっと似てますよ〜?」
「似てませんわ!!」
ミーナが無邪気に微笑む横で、グレンは黙って手紙の山を仕分けている。
「で、今日の依頼内容は?」
ライクが書類を確認していると、次々と読み上げられる。
「“夢に出てきた魔女様にペットの名前を決めてほしい”」
「“右肩がムズムズするので見てください”」
「“隣人がうるさいので、天罰的なやつをお願いします”」
「……何屋だったっけ、うち」
ルーンがぽりぽりとあごをかいた。
「引っ越し屋ですわ!! ちゃんとしたやつですわ!!」
ティティが机をばんばん叩く。
「けれどもわたくし……もうちょっと目立ってもいいかもって、ちょっと思ってたところもありましたのよ……
でもこれは行きすぎですの!!」
「“世界を救った魔法少女”、今ここに爆誕って感じだな」
「それはやめてくださいまし!! わたくしはおしゃまでいたいのですの!!」
「でもティティちゃん、“魔王を倒したのかも”って噂されてます〜」
「まだ会ってもいませんのに!!」
そのとき――
ガシャッ。
ドアベルが鳴り、1人の配達員が封筒を持って現れた。
「すみません、こちらに“評判の少女魔導士”がいらっしゃると聞きまして……」
「だから誰ですのそれーーーっ!!?」
ティティの悲鳴が、王都の朝空に吸い込まれていった。




