第8章 6.わたくし、目立ちたかったわけではありませんのに……!
王都に戻ったのは、すっかり日が暮れたころだった。
ゴーレムの残骸を片づけ、ひかり石をくるんで馬車にくくりつけ、崩れた道を戻る。
ほこりと泥にまみれた一行の姿は、どう見ても「引っ越し屋」というより帰還した討伐隊だった。
「やっと帰ってこれたな……」
ライクが肩を回しながら宿の前で一息つく。
「今日はさすがに“搬入完了”の判子もらっていいと思いますの」
ティティはスカートの泥をパタパタ払いながら、疲れきった顔をしていた。
「で、その魔法の話だけどさ……あれ、ほんとにおまえが?」
ルーンが遠慮がちに聞くと、ティティはぷるぷると首をふる。
「わたくし、いままで一度も“詠唱なしの魔法”なんて使ったことありませんのよ……」
「うん……だからこそ、ちょっと話題になってるみたいでして……」
ミーナがそっと指差す先、宿の前の掲示板には、貼りたての紙が一枚。
【目撃情報募集中】
王都南東の丘にて、巨大魔法発動の痕跡。
炎属性・光属性・分類不明。
詠唱なしの高密度魔力波動を確認。
詳しい情報をお持ちの方は、治安ギルドまで。
「な、ななななんでこんなにでかく書かれてますの!?!?」
「“詠唱なし”と“丘が割れた”のセットで、けっこうな騒ぎらしいよ?」
「もしかして……わたくし、王都で“危険人物”扱いされてる……?」
ティティが頭を抱える。
「えっへへ〜。だいじょぶです〜。“危険”じゃなくて、“話題の”って言ってました〜」
「それもイヤですのーーっ!」
ルーンは紙を指でくるくる回しながら笑う。
「“元・勇者引っ越しセンターの魔法使い”、ちょっと名前出てきてるぜ、ティティ☆」
「わたくし、目立ちたかったわけではありませんのにぃ〜!」
その叫びをBGMに、ライクが荷馬車の荷台をトントンとたたく。
「よし、明日はちゃんとした“普通の引っ越し”が来るといいな」
誰もがそれを願いながら、
でもなんとなく――無理かもしれない気もしていた。




