第8章 5.かたづけるのも、わたしたちですの……
丘の上には、風の音だけが残っていた。
あの巨体を誇ったゴーレムは、今やただの石くずの山になっている。
あちこちに砕けた装甲の破片や、燃え尽きた金属の芯が散らばり、足の踏み場もない。
「で、これ……」
ルーンが小石をひょいとつまみ上げる。
「誰が片づけるの?」
「……わたしたちですの」
ティティががっくり肩を落としながら答えた。
「せめて依頼料、増額されてほしいです〜」
ミーナがほわほわしながら祈るように手を合わせている。
「でもまあ……勝てたな」
ライクが空を見上げながらつぶやく。
「勝てたのはいいんですけど……ゴーレムにとどめを刺したのが、
どう見ても“おしゃまなお嬢様”って、世間的にややこしい気がしますの」
ティティがぷくっと頬をふくらませながら立ち上がる。
スカートは泥だらけ、髪は乱れて、魔法の余韻でふわふわしていた。
「しかも、わたくし記憶があいまいですの。
あれ、ほんとうにわたくしの魔法だったんですの?」
「違うって言われても困るんだけどな、状況的に」
ルーンが苦笑しながらゴーレムの残骸を蹴る。
「……見てください。これ……」
ミーナが、崩れたゴーレムの中心に残されたひかり石を指差した。
ライクがそっと拾い上げると、石の色が、さっきまでの赤ではなく、ほのかに白く光っていた。
「……浄化された……?」
「さっきの魔法で、石の中の“なにか”も変わったのかもな」
ライクがうなずく。
「わたくし、そんなつもりじゃ……」
「でもまあ、これで依頼は完了ってことで」
「うん……って、運ぶの、まだ残ってますのーーーーっ!?」
ティティの叫びが、空にこだました。
「馬車、地味に横転してるんだけどどうする?」
ルーンが馬車の車輪を見てしっぽを垂らす。
「ご安心くださいまし……これくらいの修理魔法なら……」
ティティが杖を構えた――
ボンッ!
「えぇぇ〜〜〜っ!? タイヤ、爆発しましたわーーっ!?」
「えっ、なにしたの!?」
「ちょっとタイヤに“火属性”かけただけですのに!?」
「それは修理じゃなくて着火!!」
「もう、わたくしにタイヤまかせるの禁止ですのーーーーっ!!」
元・勇者引っ越しセンター、やっぱり今日もいつもどおり。




