第8章 4.ですの、って言ってないですの……!
ティティの足元に広がった魔法陣が、完全に発動状態に入った。
「詠唱してませんのに!? 本当にしてませんのにぃぃぃっ!!」
叫ぶ声すら光に飲まれていく。
白金色の魔力が彼女の全身を包み、髪は浮き、目の色まで淡く輝いていた。
「……えっ、ちょ、あの子……“ですの”って言わなくなってない?」
ルーンがゴーレムの背中からつぶやく。
「ティティさんが……ちょっと神がかってます〜!」
ミーナがほわっと感動しながら距離を取る。
「詠唱の文法、完全に古代魔法言語……。ティティ、おまえ……なんなんだ」
ライクも呆然と立ちすくむ。
ティティの手元に、光の球が生まれる。
それは杖の先から少し浮かび、回転しながら形を変えていく。
火でも水でも雷でもない。もっと根源的な、“力”そのもののような光。
「っ、もう、どうにでもなりなさいですのーーーーっっっ!!!」
最後の“ですの”とともに、ティティの魔力が放たれた。
ドッッッッカァァァァァァン!!!!!!
空気がはじけ、地面が鳴る。
爆音と共に、白金の光柱がゴーレムを一直線に貫いた。
丘が揺れ、空がうなり、遠くの鳥たちが一斉に飛び立つ。
まるで雷を落とされたような衝撃。
ゴーレムの体が――
スパァン! と上下にまっぷたつに割れた。
「……………」
静まり返る一行。
「うそ……今の、一発で?」
ルーンがゴーレムの背からピョコンと飛び降り、着地した。
ゴーレムの巨体はゆっくりと傾き、やがて、カラン……と石の音を立てて崩れた。
残されたのは、少し焦げた地面と、ティティの杖。
そして、その杖の下に――へたり込んだティティ本人。
「……うぅぅ……なんか、すっごく疲れましたの……」
「帰ってきた!」
ミーナが拍手する。
「さっきまで“ですの”って言ってなかったのに、戻ってますのー!」
「え、わたくし、また変なことしちゃいましたの!?
本気じゃなかったんですのよ!?」
「誰も“本気出せ”って言ってないのに出ちゃうの、もはや天災だろ……」
ルーンがつぶやくと、グレンが無言で近づき――
ぽん、とティティの頭を軽くなでた。
ティティがビクッとしたあと、少しだけうれしそうに目をそらす。
「……次からは、ちゃんと詠唱しますの……できれば……」
丘の上に、ようやく静けさが戻ってきた。
だがこの騒ぎ――きっとただでは済まない。




