第8章 3.背中のカギと、止まらない魔力ですの……
「おーっとととっ……でっかい肩だなぁ!」
ルーンはゴーレムの背中をひょいひょいと登っていた。
肩の装甲の隙間をくぐり、背面装置へ飛び移る。
「ありました〜! これ、多分“コア”です〜!」
ミーナが地上から声をあげる。
ルーンの足元に見えるのは、金属製の丸い蓋。
その中心には、小さなくぼみがあり、魔法陣のような文様がきざまれていた。
「……これ、まさか“鍵付き”か?」
ルーンはにやりと笑う。
「いいぜ。そーいうの、得意なんだよなぁ!」
前足のパッドから、細い針金と工具をするりと取り出し、くぼみに差し込む。
「カチカチカチ……ん〜? けっこう古いやつだな、これ。でも開かないわけじゃない……っ!」
ゴーレムが不意に体を揺らす。
「おっと、動くな動くな! この場面で“振動トラップ”とかマジやめろー!」
下では、グレンがその巨体を抑え込んでいるが、時間がもたない。
盾にはヒビが入り、ライクの剣撃も分厚い装甲の前ではほとんど効果がない。
そして、ティティは――杖を両手で抱えたまま、まるで空気の流れの中に立っているようだった。
「……っ」
髪が浮かぶ。
スカートの裾がふわりと持ち上がる。
周囲の魔力が、勝手に集まってきていた。
「わたくし……魔法、使ってませんのに……?」
ティティの足元には、さっきと違う、見慣れない魔法陣。
赤でも青でもない。白と金が混ざったような光の輪が、じわじわと広がっていく。
「おーい! ティティー!? なんか光ってるけど!? 魔法暴走してない!?」
ルーンが背中から叫ぶ。
「してますの! 止めてますの! でも止まりませんのよ〜〜〜!!」
必死に杖を握るが、制御できる気配はない。
「詠唱、してませんのに……どうして勝手に詠唱してるんですの!?」
耳元に届くのは、古い言葉。
ティティ自身も知らない――だけどどこか懐かしい、そんな声が、頭の中で繰り返されていた。
「ちょ、まってまって! この魔法、規格外ですのよ!?」
魔力の風が一気に渦を巻く。
ミーナのローブがばさばさとはためき、ライクの剣まで共鳴してうなる。
「この感じ……くるぞ!」
ライクが構え直す。
「グレン、ティティから離れろ!」
グレンが盾を引き、後方へ跳ぶ。
ティティの手から、白金の光が立ち上がった――。




