第8章 1.全力で逃げてますの!
「なんで帰り道でボス戦になるんだよーーっ!!」
ルーンの絶叫が、丘の上に響き渡る。
元・勇者引っ越しセンターの一行は、引っ越しミッションの帰り道、全力で駆けていた。
その背後から、石と金属のかたまり――魔法ゴーレムがズシンズシンと地面を揺らしながら迫ってくる。
「も、もう少しで馬車です〜っ!」
ミーナが半泣きで指差す先、丘のふもとには荷馬車が見えてきた。
だが、ゴーレムの足音で崩れた地面に片輪がとられ、馬車は傾いてピクリとも動かない。
「馬車があんな状態じゃ逃げ切れないな……!」
ライクは“ひかり石”を担いだまま、顔をしかめる。
赤く光るその石に呼応するように、後方のゴーレムの目もギラリと光った。
「完全にロックオンされてますの!」
ティティがスカートをつまんで駆けながら叫ぶ。
「ちょっと、あんなの聞いてませんわよ!?
“石を運び出すだけ”の話じゃなかったんですの!?
誰も“石に番人がついてる”なんて――!」
「依頼書にちっちゃく書いてあった気がする〜。“なんかいたら気をつけて”って〜」
「めちゃくちゃアバウトな注意書きじゃねぇか!!」
ルーンがしっぽをぶんぶん振って抗議する。
ドン、ドン――。
ゴーレムがさらに距離を詰めてくる。
その巨体は二階建ての家ほどもあり、全身が岩と鋼でできているような外見だった。
「……こいつ、間違いなく“本物”の戦闘兵器だな」
ライクが石を荷台に滑り込ませ、剣を引き抜く。
「やるしかねぇ! ここで食い止める!」
グレンは何も言わず、ライクの前に無言で立ちふさがる。
その背中は、山のようにどっしりとしていた。
ティティは息を整え、髪をふわりとかきあげて杖を構える。
「わたくし、こう見えて“攻撃魔法特化”なんですのよ。
ふふっ、そろそろ見せるときが来ましたわね……!」
「ホントかなぁ〜? さっき塔の中ではドジってなかった?」
「ミーナさん!? 空気読んでくださいまし!!」
「オイラは背中から行く! 動力部が見つかれば止められるかもしれない!」
ルーンが地を蹴って飛び出した。
ライクは剣を構え、グレンが盾を上げ、ティティが杖を掲げ――
そしてゴーレムは、まるでそれを見計らったかのように、巨大な拳を振り上げた。
「こいよ、鉄くず……! こっちは、元・勇者だぞ!」
ズドォォン!!
地面が裂け、衝撃が周囲に走る。




