第7章 6.帰り道に、まさかの…
石の部屋にたたずむ“ひかり石”は、まるで塔の心臓のように、かすかに脈をうっていた。
「こいつを運べばミッション完了、ってわけだな」
ライクがごつい両手でそっと石を抱える。
思ったより軽いが、じんわりと熱を感じる。
その奥で、ティティが眉をひそめて距離を取っていた。
「これ……ちょっと、魔力の質が悪いですわ。
わたくし、こういうタイプ、苦手ですの」
「石にも好き嫌いあるのかな〜」
ミーナが笑いながら言うと、ティティはむっとしながらそっぽを向いた。
「ま、ひかり石のご機嫌はオイラに任せなって☆」
ルーンがひょいと石の上に飛び乗ろうとしたその瞬間――
ティティの杖が容赦なく彼の頭をどついた。
「われもの注意ですわよ、まったく!」
「イテッ!」
そんなやりとりを交えながら、塔をあとにする一行。
塔の外に出ると、空はすでに夕焼け色に染まり、丘の影が長くのびていた。
「よし、馬車まで戻って……王都に帰ろう」
ライクが歩き出した、そのときだった。
ズズ……ゴゴゴ……。
地面の下から、低いうなり声のような音が響いた。
「……ん?」
ルーンがぴたりと立ち止まる。
「なんだ、この音……重いぞ……!」
その言葉と同時に、丘のふもとが盛り上がった。
地面が割れ、岩のような塊がズズズと立ち上がる。
その体は石と金属がまざったような質感で、目の部分が赤く光り、
肩からは黒煙のような蒸気が噴き出していた。
「……って、ゴーレム!? しかも、でかっ!!」
ティティが叫ぶ。
見上げるほどの高さ――優に二階建ての家ほどある、重装型の魔法ゴーレムだった。
ゴゴゴ……ギギギ……。
ゴーレムが首をまわし、ライクたちの持つ“ひかり石”を見つける。
すると、その巨体がゆっくり、だが確実にこちらへ向かって歩き出した。
「ひかり石を……狙ってるのかもしれません〜!」
「うおおい! せっかくの初仕事、無事に終わったと思ったのにぃ〜!」
ルーンがしっぽを逆立てて跳びはねる。
「今は戦うな! いったん馬車まで退け!」
ライクが叫び、一同は元・勇者引っ越しセンターとは思えぬほどの全力ダッシュで丘をかけおりる。
背後では、ゴーレムの足音が地面を震わせていた――。




