第7章 5.さいごの扉、オイラが開ける!
塔の奥へと進むにつれ、空気はどんどん重たくなっていった。
壁の模様はまるで呼吸するかのように波打ち、天井からは小さな光の粒がふわふわと落ちてくる。
まるで、塔そのものが“生きている心臓”の中に入り込んだようだった。
「空気が……ちょっと違いますわね」
ティティが目を細めてつぶやく。
「この奥……なにかが、眠ってる感じがします〜」
ミーナも両手を組みながら、やわらかく目を閉じた。
そして通路の先。
そこにはひときわ大きな石の扉が立ちはだかっていた。
どこにも取っ手はなく、鍵穴もない。
ただ、中央に丸いくぼみがぽつんとあるだけだった。
「……どうやって開けるんだ、これ」
ライクが扉を軽くたたいてみると、鈍い音が返ってくる。かなり厚い。
「魔法の反応もほとんどありませんの。
これは……動力源がどこかに隠されてますわね」
ティティが杖を当てて調べるが、反応はない。
ルーンはしばらくその扉を見上げてから、ひとつあくびをした。
「ふーん……たぶん、この壁じゃないぜ。
扉の右下、ほら、ちょっとした穴があるじゃん?」
言われて見てみると、確かに地面近くに小さな丸い穴がぽっかり空いていた。
人間じゃとても通れない。大人の腕でもつかえてしまうようなサイズだ。
「これ、猫サイズですわよ……?」
「うん、完全にオイラサイズ。オイラ、ちょっと行ってくるわ」
「待って。罠かもしれないよ?」
ライクが声をかけるが、ルーンはしっぽをひとふりして笑った。
「罠だったら、かわしてみせるさ。だって――」
その顔は、いたずらっ子の笑顔ではなかった。
どこか、誇らしげで、自信に満ちていた。
「ここが、オイラの仕事だからな」
そう言うと、ルーンはその小さな穴へ、すいっと身体を滑り込ませた。
中は、ほそくて、くらくて、ひんやりしていた。
でも、前足で壁をたたき、耳で反響を読みながら進めば、道は見えてくる。
「よしよし、だいたい想像どおり……っと。ここだな」
小さなくぼみに足をかけ、天井にぶら下がるレバーを引く。
ガコン――!
塔が、ごうん、と低くうなる音を立てた。
「……動いた?」
ティティが身をかがめた瞬間、目の前の大きな扉が、ゴゴゴ……と音を立てて開いていく。
その向こう。
そこには、大きな光の石がふわりと浮かんでいた。
淡い青に輝く、やさしい光。
まるで塔そのものの“心臓”のような石だった。
「……これが、ひかり石」
「やっと、見つけたな」
ライクがつぶやいたそのとき、ぽん、と何かが床に落ちた音がした。
見ると、ルーンが穴からぴょこんと顔を出し、にっこり笑っていた。
「おまたせ〜! さいごの扉、ちゃんと開けといたよ☆」




