第7章 3.これって、歓迎の罠?
塔の中は、しんと静まり返っていた。
石の床、冷たい空気、そして遠くでぽたぽたと水のしずくが落ちる音。
差し込む光はなく、天井のすきまから入り込む風が、細かい砂をさらさらと運んでいく。
「なんだか……古いお屋敷の中みたいですわね」
ティティが杖の先に小さな光をともすと、通路の先がぼんやりと照らされた。
その時だった。
カチン。
なにかが、足もとで音を立てた。
「わっ……!」
ミーナがあわてて足を引いた、そのすぐ目の前――
床板がスライドし、尖った針の束が天井から勢いよく落ちてきた。
「きゃーっ!」
「ミーナ!」
ライクが咄嗟に盾で受け止めようとする――が、それより早く、灰色の影がすっと横切った。
「おいおいおい! あぶないってば!」
ルーンだ。
しゅぱっと音を立てて飛び上がり、ミーナの足元を滑り込むように突き飛ばす。
ドン、とふたりが倒れたちょうどその瞬間、針は地面に突き刺さった。
「……ミーナさん、だいじょぶ〜?」
「は、はい……えへへ、ルーンさんって、はやいんですね〜」
ミーナはのんびりした声でそう言うが、ルーンのひげは逆立っていた。
「この塔……思ってたより、ずっとイジワルだぜ」
そう言って立ち上がり、今度は前足で床をたたいて耳をすます。
「この床、左右に圧力板が入ってる。
誰かが一歩ずれたらアウトってやつ。動きながらしかける“連続わな”か……けっこうやるじゃん!」
「こっちはまったく反応ありませんでしたわ。魔力はほとんど感じられませんの」
ティティがむくれて、そっと床をつつく。
「いや、逆に“魔法には反応しない罠”なんだよ、たぶん。
力じゃ壊せない、魔法も効かない、そういうのがこの塔の趣味ってわけ☆」
「……なるほど。じゃあ、ルーンが前に立って、道を探ってくれ」
ライクが言うと、ルーンはくるりと振り向いた。
「いいよ〜。こーいうの、オイラ得意なんだよね。
しっぽで風感じて、耳で音ひろって、鼻で金属のにおいを追えば――」
「まって、それ動物としてじゃないですか?」
ティティが目を丸くする。
「ちっちっち、これが“職人のかん”ってやつよ。さ、ついてきな!」
ルーンはすいすいと先頭を進みながら、つま先でそっと床をたたいて歩いていく。
まるで猫というより、塔の空気を読みとるプロの泥棒のようだった。
「……シーフって、かっこいいんですね〜」
ミーナがぽそっとつぶやいた。
塔の中はまだまだ先が長い。
けれど、ルーンがいるなら、どんな罠もなんとかできそうな気がした。




