第7章 1.あやしい研究員と、しまったままの扉
朝の引っ越しセンターは、いつもどおりのんびりしていた。
ミーナは朝食の後片づけをしながら鼻歌をうたい、ティティはパンくずをテーブルの上で魔法陣にして遊んでいる。
ライクが椅子に座ったとたん、ルーンが背もたれに飛び乗った。
「ふあぁ〜……オイラ、今日こそ寝ててもいい?」
「ダメだ。昨日も“今日こそ”って言ってただろ」
ライクがルーンの頭を指で押すと、しっぽがぴくっとはねた。
そこに、カラン、とドアベルの音が鳴る。
「わっ、きたきた☆ 依頼かな〜。なんか面白いのがいいな!」
ティティが真っ先にドアへ走る。
開けると、妙に長い白衣を着た男が立っていた。
髪はぼさぼさ、メガネはずり落ち、肩にはなぜか小さな鳥かごがぶらさがっている。
「お、おはようございます……。あの、こちら、元・勇者引っ越しセンター、さん……ですよね?」
「はい、そうですけど……そちらは?」
「王都研究室の、えーと、ふじ本です……いえ、名前はなんでもいいんですけど」
「よくないと思いますわ」
ティティがすかさずつっこむ。
「その、ですね。運んでほしい物があるんです。
ある“塔”の中にある“石”でして……ひかってて、ちょっと浮いたりして……とにかく、すごい石です!」
「石なら馬車で運べますよ。
でも、塔の中にあるってことは……誰も持ち出してない?」
「はい。というか、誰も中に入れないんです……。
全部、扉が閉まってて……魔法でも開かないし、叩いてもダメで……」
ふじ本が、ぐしゃぐしゃの地図をテーブルに広げた。
塔の絵の周りに、「扉」「罠」「光る石」と雑な文字が並ぶ。
「なるほど……これは、ただの引っ越しじゃなさそうだな」
ライクが腕を組んだ。
「しめきりまくった塔、開けに行こうってわけか」
「オイラの出番かもな〜。鍵、罠、あやしい石……ぜんぶそろってる!」
ルーンがニヤリと笑う。
「シーフの仕事、久々に見せてやるぜ☆」




