第6章 5.センター、猫と交渉
夕方が近づき、屋敷の作業もひと段落ついたころ。
現地の管理人が到着した。
使用人風の男は礼儀正しく頭を下げながらも、現場をぐるりと一瞥してこう言った。
「日記? ああ、あの古紙束ですか。
廃棄処分予定になっておりますので、そちらで勝手に処分されても……」
「えぇっ!?
こんなに魔力がぷわぷわ残ってる紙を“燃やす”ですって!?
正気ですの?」
ティティが目をむいて声を上げた。
「書き手の記録や身元は確認できておりませんし……
危険なものではないかと」
「逆に、“確認できない”ものほど扱い注意ですわ!
しかも、それを焼くだなんて……ほんとうに火をつけちゃうつもりだったんですの?」
そのやり取りを聞いていたルーンが、やや焦ったように耳をぴくつかせた。
「えーと、あのー。オイラ、あの紙のことで怒られてる感じです?
返すから、ね? ほら、安全に渡すから!」
ティティはくるりと振り向き、ステッキをちょんと肩に乗せてにっこり笑った。
「ねえ、それ、なんでこっそり持ってたんですの?
正直に言わないと、魔法でくすぐっちゃいますわよ♡」
「ええと、その……なんとなく、捨てられたくなかっただけっていうか。
変なんだよ、あの紙束。読んでたら、なんかこう……
名前とか、記憶とか、じわっと脳に染みてくる感じがしてさ。
オイラ、怖くなって逃げ込んだだけで、盗む気はなかったんだよ、ほんとに!」
「う〜ん……うそは言ってませんね〜」
ミーナはルーンの後ろでにこにこしていた。
「はぁ〜……」
ティティが目を伏せる。
「じゃあどうしますの、ライク様。うちで飼いますの?」
「飼うんじゃなくて、一時的に預かるだけだ」
ライクはきっぱりと答える。
「……行き場がないなら、うちで仕事を手伝わせる。
部屋と食事の代わりにな」
「部屋って……おい、マジかよ。寝床もらえるのか? まじで?」
「使えるなら、使う。それだけだ」
ライクはそっけなく言ったが、その表情はどこか穏やかだった。
「では、この猫──いえ、ルーンさんには、仮見習いシーフとしてセンターに参加していただくということで?」
ティティがくるりと回って手帳を取り出す。
「シーフ見習いって響き、なんかちょっとかっこいいかも……
って、いやいや! まてまてオイラ、まだ正式に同意して──」
「給料は魚です〜」
ミーナがにこにこしながら手を差し出した。
「……はい、入ります」




