第6章 1.引っ越し依頼、貴族屋敷へ
王都の南西、静かな丘の上に立つ屋敷は、今ではもう人の手を離れた空き家同然だった。
石造りの門と黒鉄の柵。
風に鳴る錆びた鎖の音が、どこか不穏に響いている。
「うわあ……いかにもって感じの屋敷ですわね」
ティティが門扉の前で立ち止まり、腕を組んで見上げた。
「ほこり、しみ、古びた魔力……
貴族趣味っていうより、ちょっとした“呪い屋敷”ですわよ、これ」
「呪いは困ります〜。
お掃除のとき、ぴりぴりしますから〜」
ミーナはのんびりと笑いながら、掃除用の聖水入りポーチを腰にくくり直した。
ライクは黙って門を開け、中庭をぐるりと見渡す。
「引っ越し先は東の地方都市。
荷物は基本、家具と書類中心……だが、屋敷主は不在。
鍵と指示書だけが渡されてる」
「……つまり、屋敷の中に何が置いてあっても、
わたくしたちの判断で勝手に触ってよし、というわけですのね。
依頼主様はその結果に責任は取りませんって。……ああ、いやな予感しかしませんわ〜」
「……におう」
珍しく、グレンが口を開いた。
言葉は少ないが、その目線は天井――いや、屋根の方をじっと見ていた。
ミーナがふと首をかしげる。
「……誰かに、見られている気がします〜」
「ふふっ、またまた〜、怖がらせようとしてません?
そういうときはお祓いですわ!」
ティティはひょいっとステッキを振り、空中に小さな浄化の光輪を飛ばす。
光はくるりと回って、門の上でぱちりと弾けた。
「反応あり、ですわね……
やっぱり、何かいる気がしますわよ、この屋敷」
ライクはため息をついて肩を回すと、屋敷の玄関扉を押し開けた。
「まぁ……どのみち、入ってみなきゃわからん。
運ぶものがあって、床が抜けてなきゃいい」
「おにーさまってば、もう少し警戒してもよくってよ?
この扉のヒンジ、明らかに魔力漏れてますのよ?」
「大丈夫だ。ミーナがいれば何とかなる」
「なんとかなります〜。たぶん〜」
ティティは大きくため息をついてから、ステッキを肩に担いだ。
「もう、うちのセンター、勇者以外ぜんいん神頼みですの……」




