第5章 4.名前をさがす声
空にのびる光の階段は、まるで生きもののようにゆらゆらとゆれていた。
足をかけようとすれば、ふっと消えてしまいそうなほど、かるくて、はかない。
「ここに置けば……いいのかな」
ライクは、手に持っていた木箱をそっと床に置いた。
すると、その瞬間。
光の階段がふわりと明るくなり、箱がすうっと浮かび上がる。
「……あ、持っていかれてますわ。なにもしなくても勝手に、ひゅい〜って……」
ティティが指先でその動きをなぞる。
箱はゆっくりと階段に沿ってのぼり、途中から霧の中へと消えていった。
「すごい……魔法の橋みたいです〜。でも、先が見えないのがちょっとこわいです〜」
ミーナは空を見上げながら、少しだけ首をかしげた。
続けて二つ、三つと、ほかの荷物も同じように光にすいこまれていく。
音はなく、ただ風のように静かだった。
そして、最後の箱が運ばれていったそのとき——
ふわ……っと、風が吹いた。
だれかの呼ぶ声のような、でもはっきりとは聞きとれない、やわらかい音が耳をかすめた。
「……?」
ライクがふり返ると、ティティもミーナも動きを止めていた。
「今……何か聞こえましたわよね?」
「名前……みたいでした。うーん、何の名前かは思い出せませんけど〜……」
ミーナが目を細めて、そらを見つめる。
ティティは帽子をぎゅっとおさえたまま、しばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。
「“思い出すな”って、言ってた気がしますの。でも……」
「でも?」
「わたくし、そう言われると、よけい思い出したくなっちゃいますのよね」
いたずらっぽく笑ったティティの目に、少しだけかなしそうな色がまざっていた。
ライクはもう一度、光の階段を見つめた。
ゆらめく光は、何も語らず、ただ空のむこうへとのびている。
まるで——その先に、忘れられた何かがあるかのように。




