第5章 2.町はずれの塔へ
王都のはずれに、その塔はあった。
昔は天気の観測に使われていたらしいが、いまは使う人もいなくなって、ひっそりと立ちつくしている。
まわりに人気はなく、風の音と草のざわめきだけが静かに聞こえてくる。
「わたくし、ここ初めて来ましたの。
ちょっと古びてますけど、いい雰囲気ですわね〜。
おばけとか、出たりしませんでしょうね?」
ティティが帽子のつばを押さえながら、塔を見上げた。
塔のまわりには草がのび放題で、ところどころに古い木箱や石板のようなものが転がっている。
「ふふ……おばけが出るなら、むしろ歓迎です〜。
神さまのお話、聞けるかもしれませんから」
ミーナはいつものようにのんびり笑っているが、ライクは少しだけ警戒していた。
塔の入り口は半分開いていた。
誰かが最近通った形跡はないが、内側には、いくつかの木箱と小さなかごが整えて置かれていた。
「これか……。たぶん、この荷物を運べってことなんだろうな」
「ぜんぶで五つですわね。……って、あら?」
ティティが木箱のひとつに手をのばすと、指先に小さな魔法の光がはじけた。
「……ちょっと変ですわ。この箱、なにかの魔法でロックされてますの。
あんまり強くないですけど、ふるいタイプのやつですわね」
ライクが箱の表面を見てみると、たしかに古い王国の文様がうっすらと刻まれている。
「しかもこれ……転送用の印がある。どこかとつながってるんだな」
「ぴったり、ですわね。その言い方。
転送用の印、って感じですの。
まるで、見えない“橋”がどこかにかかってるみたい」
ティティは箱を軽く持ち上げながら、にこっと笑った。
ミーナが、そっと箱に手をかざす。
「……あれれ? 中身の気配が、よくわかりません〜。
それに、持ち主の“名前”が感じられないんです」
「名前が感じられない?」
「はい〜。ふつうなら、“これは○○さんの物です”って、うすくでも何かが伝わってくるんですけど……
これは、まったくありませんの〜」
ライクは、塔の中にしばらく目をやった。
まるで、ここにいたはずの“誰か”が、いたことごと忘れられてしまったような——
そんな、妙な静けさがあった。
「……運ぶだけ運ぶか。そういう仕事だ」
そう言って、ライクは一つ目の箱をかかえた。
グレンも、黙って二つ目を持ち上げる。
ティティがぴょんと小さく跳ねるように言った。
「ではでは、屋上へまいりましょう〜!
なんだか、そこに何かありそうな気がしますの♡




