第5章 1.空から手紙が落ちてきた
センターの朝は、たいていティティの声で始まる。
「グレンさま〜!
パン焼きすぎですわよ〜!
かたすぎて前歯が危ないですの〜!」
キッチンでは、無口な戦士がトースターの前で黙々とパンを焼いていた。
ティティの声に反応したのかしてないのか、小さくうなずくと、焦げ目の強いトーストを別のお皿にのせ直す。
「はい、朝ごはんできました〜」
ミーナがにこにこしながら、スープの入ったおわんをみんなの前に置いていく。
野菜の香りが、のんびりとした空気を部屋いっぱいにひろげていた。
ライクが椅子に座りかけた、そのとき——
バサッ。
何かが風に乗って、窓のすきまからひらひらと舞いこんできた。
「わっ、なにか降ってきましたの!」
ティティがぴょんっと立ち上がり、くるくる回る白い紙をひらりとキャッチした。
「神さまからの手紙かしら!?
……って思ったけど、これ、ただのふうとうですわね」
「ふふ……神さまは紙ではなく、風そのもので語るんですよ〜」
ミーナがのぞきこみながら、笑顔でそうつけ足す。
「でもこの紙……なんだか変に高そうですわ。
ぺらぺらじゃなくて、もちもちしてますの。
お金持ちの人が使ってそうなやつですわね〜」
ライクがふうとうを受け取る。
手ざわりはたしかに分厚くて、少し光沢がある。
だが、差出人の名前も印も、どこにも書かれていない。
「裏にも何もないな……」
中には、一枚だけ便せんが入っていた。
『この荷物を、町はずれの塔まで取りに来てください。』
文章はそれだけ。宛名もなければ、あいさつもない。
まるで誰かが急いで書きのこしたような、ぶっきらぼうな内容だった。
「差出人も連絡先もなしって……ずいぶん勝手な人ですわね。
お願いごとするときは、もうちょっとていねいに書くべきですのよ?」
ティティはむっとしながら、つまさきで軽く床をとんとんと鳴らす。
「どうする? こんなの信じて行ってもいいのか……?」
ライクがつぶやいたとき、グレンが椅子を引いて、無言で立ち上がった。
目だけが、塔の方角をじっと見つめている。
「……」
「わぁ〜、グレンさまが乗り気ですの〜。
じゃあ、決まりですわね♪」
ティティがくるりと回って、ふわりと帽子をかぶり直す。
「行きますわよ、みなさん!
町はずれのふしぎな塔に、だれかが待ってる気がしますの♡」




