表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・勇者引っ越しセンター  作者: Kahiyuka
第4章 しゃべる城を黙らせろ
27/126

第4章 5.歩き出す城、準備の音

グレンが静かに立ち上がったとき、誰も声をかけなかった。


彼はまっすぐ城の方へ歩いていき、塔の根元に腰を下ろすと、そのまま、何をするでもなく、ただじっとしていた。

まるで、見張りのように。あるいは、そばにいてくれるだけの誰かのように。


「……なにしてるんですの?」


ティティが小声でつぶやいたが、グレンから返事はない。


「話しかけるんじゃなくて、“そばにいる”ってことが、大事なのかもしれませんね〜」


ミーナの声は、そよ風みたいにやわらかい。


「……まあ、オレたちはオレたちで、やれることを進めるか」


ライクが腕をまくりながら言うと、ロゼッタが軽くうなずいた。


「そうね。動かすには、まだいくつか手順が残ってるの。

 たとえば、封印を解く準備とか、足まわりの地面のチェックとか……あと、進む方向を決める杭も立てなきゃね」


「わたくし、その杭、魔法で打てますわ! ちょっとズレても……まあ、大丈夫ですわよね?」


ティティが得意げに杖をくるくる回す。


「神さまは、“水平ってだいじ”っておっしゃってました〜」


ミーナが優しく注意する。


ライクは周囲を見渡しながらうなった。


「あと、地面がゆるい場所は板で補強しよう。通り道の草も刈らなきゃな。……っていうか、中の準備は?」


「お城の中……?」


ティティがぱちぱちと瞬きをした。


「そりゃそうだろ。棚の上のツボとか、食器とか……歩きはじめたら、ぜんぶぶっ飛ぶぞ」


「……ああーっ、たしかに!」


ロゼッタが苦笑しながら補足する。


「昔は“歩く準備係”がいたのよ。中の物をまとめて、転がらないように結んだり、戸棚に魔法ロックかけたり……」


「引っ越しセンターのお仕事としては、そこをおろそかにはできませんわね!」


ティティが手をあげて宣言する。


「わたくし、室内の結界ロープを張ります! 魔法で皿もまとめてぐるぐるに!」


「じゃあオレは家具を止めるための板と紐を運ぶ。城の中、補強しながら回るか」


「わたしは、本棚の整理をやってみますね〜。紙が散らばるとあとで戻せませんから……」


三人は手分けして、城の中へ向かった。


喋りつづける壁の声を聞きながら、棚にロープを巻き、ガタつくテーブルの足にくさびを打ち、本の束を箱に入れていく。

まるで、巨人の目覚めにそなえるかのように。


そのあいだも、グレンはずっと、塔の根元に座っていた。


——やがて、塔のあたりから、ぽつりと声が漏れた。


「……なんか、落ち着くなあ」


「静かで、でも、こわくない。

 ……こんな時間、むかし……あった気がする」


その言葉に、誰も返事はしなかった。

ただ、草の音と、木づちの音と、魔法の光とが、静かに丘に広がっていった。


まるでそれが、城へのあいさつみたいに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ