第3章 6.帰り道は、家みたいだった
再び乗り込んだ『アクアマルシア号』の甲板には、どこか懐かしい空気が流れていた。
ティティが甲板にごろんと寝転び、両手両足を思いっきり広げる。
「ふぅ〜……センター、やりきりましたわ♡」
ライクが苦笑する。
「ティティ、くつろぎすぎだ。他のお客さんもいるんだぞ」
ティティは港の方を指差して笑った。
「だいじょうぶですの〜。ほら、あっちの人も笑ってますわ」
ライクが振り返ると、確かに乗客のひとりが微笑ましそうにこちらを見ていた。
……たぶん怒ってはいない。
グレンは手すりにもたれ、しっかりと足を踏ん張っていた。
昨日よりは顔色がいい。
ティティが背後に回り込み、手をひらひらとかざす。
「はいっ、ティティ式“酔わないおまじない”をかけましたわ! これで完璧ですの!」
ライクが眉をひそめる。
「それ大丈夫なやつか……?」
ティティは胸を張った。
「ふふっ、気分の問題ですわ〜♡」
ミーナは小さな木箱を膝の上に乗せ、じっと見つめていた。
「なんだかこの箱、すごく落ち着くんですよねぇ〜……音も、ほんのりあたたかくて」
ライクが首をかしげる。
「音? 鳴ってんのかそれ」
「いえ〜、気のせい……かもしれません。でも、たぶん“いいもの”が入ってる気がします〜」
夕方。
海に夕陽が差し込み、甲板が黄金色に染まる。
ライクは空を見上げながら、静かにつぶやく。
「……俺たち、ちゃんと“チーム”になってきた気がするな」
ティティがにこっと笑って言う。
「もちろんですわ! センターはすでに“ほぼ完璧”ですの♡」
ライクが半眼になる。
「“ほぼ”が一番危ないやつだけどな」
ミーナもふわりと笑みを浮かべる。
「でも本当に、みなさんと一緒だと安心しますね〜」
風がゆるやかに吹き、船はゆっくりと港へ向かって進んでいく。
“元・勇者引っ越しセンター”の旗が、帆の横で軽やかにはためいていた。
まるで、それが――
「家族」とまでは言わなくても、ちょっと“帰る場所”に似た何かになってきたような、そんな気がした。




