第3章 3.ようこそ、忘れられた村へ
港から馬車で数時間。
センターの一行は、東方山岳のはずれにある村――リュミエに到着した。
けれど、そこには人の気配がなかった。
ティティが周囲を見回す。
「……誰も出てきませんわね」
ライクも眉をひそめる。
「留守ってことは……ないよな?」
家はある。畑もある。
洗濯物も風に揺れていた。
けれど、誰の姿も見えない。
ミーナがそっとつぶやく。
「なんだか、“時間だけ止まってる”感じがしますねぇ……」
そのとき、一軒の家の扉ががらっと開いた。
「……あんたらが、引っ越しセンターの連中か?」
現れたのは、小柄な老人。目だけが鋭く光っている。
ティティが一歩前に出る。
「はいっ、センターですわ! ご依頼のお引っ越しに伺いました〜♡」
「しゃべるのはワシじゃない。こっちだ」
老人の背後から、元気な少女がぴょこんと顔を出した。
年のころは小学生くらい。手には地図と紙束を抱えている。
「こんにちはー! センターさん? 来てくれてありがとう! おじいちゃん、しゃべるの苦手だから案内はぜんぶ私がやるね!」
ティティが感嘆の声をもらす。
「……頼もしすぎる代理人ですわ……」
ライクは半ば呆れながらも確認する。
「マジで引っ越し案内を子どもが担当なのか……」
少女は頷き、手招きした。
「こっちだよ!」
案内されたのは、村のふもとにある古い一軒家。
そこが今回の搬出元だった。
ライクが地図を見ながら確認する。
「じゃあ、ここの荷物を新しい家に運ぶってことでいいんだな?」
「うんっ。ぜーんぶ、崖の上のおうちに運んでほしいの!」
少女が指差したその先。
断崖の上に、ぽつんと建つ真新しい建物が見えた。
ティティが思わず声を上げる。
「……あそこに?」
「そう。新居、あそこ!」
ティティは顔をひきつらせる。
「って、崖の上ですの!? あの高さ……普通の引っ越しじゃありませんわよ!」
少女は笑顔で言った。
「魔力の関係で、あそこじゃないとダメなんだってー。おじいちゃんのこだわり!」
ライクは小さくため息をつく。
「……今回も、一筋縄じゃいかなそうだな……」
そのとき、家の中から不穏なきしみ音が響いた。
魔道具たちが、すでに“移動”を察して騒ぎ出していたのだった――。




