表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・勇者引っ越しセンター  作者: Kahiyuka
第2章 クセ者だらけの王都依頼
15/126

第2章 7.遠方からの依頼到着

午後の陽射しが和らぐころ。

宿の玄関で、控えめなベルの音が鳴った。


「お届けものでーす」


使い魔便の配達員が差し出したのは、一通の封筒。

封蝋には、王都契約管理ギルドの刻印がある。


ライクが受け取り、封を確かめる。


「……ギルドからか。でもこれ、依頼状というより……契約書だな」


封を切ると、中には丁寧に製本された依頼文書が入っていた。


ご依頼内容:

小型住宅一式の引っ越し(家具・生活道具)

搬送先:東方山岳方面・辺境村リュミエ

ご依頼主:名義非公開(正規代理人を通じて申請)

契約形式:定額/片道対応/補助支援あり


「リュミエ村……? 聞いたことないな」


ティティが首をかしげてつぶやく。


「お菓子の名前みたいですわ〜。“リュミエ風パイ”とか♡」


ライクは苦笑して地図をのぞき込む。


「残念ながら今回はおやつじゃなくて、ガチの山奥だな」


ミーナが書類を受け取り、丁寧に目を通す。


「契約としてはまったく問題ありませんね〜。保証文も整っていて、経路補助の記載もあります〜」


ライクが地図を指でなぞる。


「問題は“遠さ”ってことか……」


ミーナがうなずく。


「はい〜。このまま陸路を進むと、通常の馬車でも数日はかかりそうです〜。特に山道の記載が……細いですねぇ……」


「となると……ギルドに一度、補足を聞きに行くか」


その日のうちに、センターの面々は王都ギルド分室を訪れた。

応対に出たのは、先日もやり取りを交わしたフェルスだった。


「やあ、センターの皆さん。ご依頼、届いていますか?」


「内容は確認した。だけど場所の詳細と、搬送ルートの件で補足を聞きたくてな」


フェルスは手慣れた様子で地図を広げ、東方の一角を指差す。


「依頼先はこのあたり。王都から東へ、山岳を越えた“リュミエ村”という集落です。馬車では五日以上。途中の橋も流されておりまして……」


ライクが渋い顔になる。


「橋がない時点で、もうアウトなんだが……」


フェルスは続ける。


「ですが、海路なら南港から出航し、東海岸を回って、そこから短い山道を登れば比較的安全です」


「……つまり、やっぱり“船を使え”ってことだな」


「ええ。依頼主側もそれを想定しており、浮遊荷台も含めた契約になっています」


ライクが小さく笑う。


「まさか、ほんとに“船で引っ越し”する日が来るとはな……」


ティティがぴょんと跳ねて、にっこり笑った。


「ふふっ。魔法と風と波が合わされば、きっと素敵な旅になりますわ〜!」


ルーンがぼそっとつぶやく。


「……なんか、フラグっぽいんだけど」


宿に戻った一行は、早速明日の準備に取りかかった。

地図、契約書、必要資材の再確認、そして何より――


ライクが窓から吹き込む潮の匂いを含んだ風を感じながら言った。


「人生初の“遠距離搬送任務”、か」


“元・勇者引っ越しセンター”、初の長距離依頼。


それは、ただの移動ではなく、

未知の地と、まだ見ぬ依頼主への、一歩だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ