表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・勇者引っ越しセンター  作者: Kahiyuka
第2章 クセ者だらけの王都依頼
14/126

第2章 6.引っ越し日和、ただしクセ強

作業当日、天気は快晴。

空にはうっすら白い雲が浮かび、風には少しだけ春の匂いが混じっていた。


ライクが声を張る。


「よし。準備はいいな。センター、出動するぞ」


グレンは無言で荷物用の台車を引き出し、

ミーナは引っ越し用の浄化布を数枚取り出して丁寧にたたむ。


ティティはというと――

なぜかスライム型の帽子をちょこんとかぶっていた。


「本日ティティ、安全第一スライムモードでございますわっ♡」


「それ、絶対どっかで引っかかるやつだよな……」


コルネリオ邸の門をくぐると、

すでに屋敷の外には魔道具や家具がずらりと並んでいた。


本人はというと、屋根の上で寝転びながら紅茶をすすっている。


「うん、実に素晴らしいね! “人に任せる”って最高だよ!」


「じゃあ少しは地上に降りてこいよ!」


まずは搬出作業。

だが、やはりというべきか――いくつかの魔道具が、素直に言うことを聞いてくれなかった。


ティティがクッション型の道具を持ち上げた瞬間、


「……ん?」


ポンッ!


軽く跳ねたクッションが床の結界式を一瞬だけ起動させ、

パカッと開いた壁から、使い魔用のバスケットが勢いよく発射された。


「うわああっ!? ティティ、撃たれましたのーー!!」


「……使い魔認定されちゃったのか……?」


ミーナは、収納箱から漂う淡い光に気づき、そっと封印布をかけた。


「これは……魔力が溜まりすぎて、不安定になってますねぇ。たぶん、“押さえて〜”って言ってるんだと思います〜」


「道具に人格ある感じやめてくれ……」


「でも、ありますよ〜。“道具の機嫌”ってやつなんです〜」


「今度、ちゃんと講義してほしいわ……」


グレンは、重力の挙動がおかしい一角の棚を見つけると、

無言でロープを回し、そのまま床ごとごりっと持ち上げてしまった。


ティティが目を丸くする。


「さすが……物理と精神力の権化ですわ!」


「ねじ伏せましたね、完全に……!」


ライクは屋敷全体の動線を管理しながら、搬出ルートの調整を続けていた。

狭い通路、浮遊系装置の干渉、近隣住民からの通報リスクまで考慮し、タイムテーブルまで引いている。


「……おれ、いったい何屋だったっけ?」


「ライクは“現場型作戦司令官”ですわ! ……たぶん!」


「それ軍属じゃねぇか……」


作業がひと段落したころ、近所の子どもがふたり、庭の外から小さな花束を差し出した。


「このおじさん、変な魔法いっぱい使ってたけど……」

「でも庭の花には毎日お水あげてたよ。やさしい魔法使いさんなんだと思う」


屋根の上からそれを見たコルネリオが、ぽつりとつぶやく。


「……まいったなぁ。本人には全然記憶がないんだけど……そういうの、ちょっといいな」


トラック代わりの浮遊荷台に、最後のひと箱が積み上げられる。


ミーナが手を合わせる。


「これで全部ですね〜」


荷台がふわりと浮かび上がった。


コルネリオは玄関先に立ち、屋敷を一度だけ振り返ると、軽く手を振った。


「じゃ、よろしくね。次の住処では……なるべく騒がないよう努力するよ。できたら、たぶん、なるべく……」


「努力の気配、だいぶ薄くねぇか……」


ティティがくすくす笑って空を見上げた。


「センターって、荷物だけじゃなくて、人の気持ちまでちょっと運んでる気がしますの」


ライクは小さくうなずいた。


「……ま、それで飯が食えてるなら、悪くねぇな」


その日、“元・勇者引っ越しセンター”の名は、

王都の中でほんの少しだけ広まった。


なんだかちょっと――便利で、頼れそうな連中。

あの勇者たちが、引っ越し屋になったらしいよ――と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ