第2章 5.勇者あるあるアクシデント
夕方。
買い物や散策を終えた一行は、王都中央広場の噴水前で合流していた。
ミーナがにこやかに問いかける。
「おつかれさまでした〜。みなさま、お財布の中身はご無事でしたか?」
ティティが袋を掲げてくるくると回りながら答える。
「ぜったい伝説になりましたわ〜! わたくしの財布、いま“空っぽのポケット伝説”ですの♡」
「伝説のバーゲンセールかよ……」
グレンは相変わらず無言だったが、袖から覗いた土と、肩の筋が微妙に張っていたことから、昼間は木登りか素振りでもしていたらしい。
ライクがふと、全員の顔を見渡して口を開く。
「……で、買い忘れたもん、ないか?」
「ありますわっ!!」
ティティが即座に手を挙げて叫ぶ。
「“魔法おみくじ付きアイス”を、まだ買っていませんでしたのー!」
「いや、今から言うセリフじゃねぇだろ!?」
──5分後。
ティティはすでにアイスを持って、ごきげんにぺろぺろしていた。
「これですの。“食べ終わるとおまけ魔法が発動する”って書いてありましたわ!」
「嫌な予感しかしねぇ……」
ミーナが包装の注意書きをのぞき込む。
「ええと……“稀に祝福系魔法が発動します。公共の場ではご配慮を”……って、ちゃんと書いてありますね〜」
「おい、それ絶対まずいやつだろ……!」
「えっ、じゃあ……今食べたの、マズかったですの?」
「もう食べ終わってんじゃねーか!!」
パキッ。
最後のひとくちをかじった瞬間、ティティの背中からふわりと白い光が浮かび上がった。
「……え?」
ふわっ、ふわっ、ふわふわっ――
光は羽のかたちになり、止まることなく、どんどん増えていく。
「な、なにこれ!? 神々しくなってますわ!? 背中から何かが生えてますわよね!?」
「完全に“祝福の羽”だ……!」
通りがかりの人々がざわつき始める。
「天使様……?」「祝祭の儀式?」「写真いいですか!?」
グレンが黙って背後からティティを止めに入るが――
羽のもふもふエネルギーにより、軽くぽよんと弾かれて芝生に転がった。
ライクが叫ぶ。
「誰かあの天使止めろー! ……って、おれが止めるのか!?」
ミーナが額に手を当てて小さくうなる。
「これは……神性系の魔法の暴走ですねぇ。こういうときは僧侶の出番、らしいです〜」
「落ち着いてるように見えるけど、わりとテンパってないか?」
「わたし、いつも“動揺してるのを隠す努力”だけは真面目なんです〜」
そう言って、ミーナは詠唱に入る。
「……祝福の羽よ、静かに眠りにつきなさい……あと、次はもっとおとなしく出てきてください……」
光がすっと収束し、ティティの背中から羽が静かに消えていった。
「……終わった?」
「ふわ〜〜♡ 本日も全力で、生き抜きましたわ〜!」
「お前が原因だよな!?」
周囲の人々が、なぜか拍手をし始める。
「よいものを見た」「さすが勇者の地だ」「引っ越し屋が天使を召喚したらしいぞ」
「違いますからね!? うちはただの“元・勇者”ですから!」
しばらくして、グレンが芝生から戻ってきた。
服には落ち葉がつき、左肩にはどこかから飛んできた林檎飴がぷすっと刺さっていた。
ライクは苦笑いしながらつぶやく。
「……やっぱおれたち、どうがんばっても“普通の業者”にはなれねぇな」




