第19章 7. 収束と声
瓦礫と瘴気の残滓に包まれた広間に、静けさが戻った。
影狼の赤い目はすべて消え、鎧の怪物もただの鉄屑と化して転がっている。
ライクは大きく息を吐き、剣を納めた。
「……終わったな」
ティティは焦げたリボンを直しながら、ぷるぷると震える。
「もうっ! せっかくのリボンがボロボロですわ! 補償してほしいですの!」
「自分で暴発させたんだろ……」
ルーンはずぶ濡れの尻尾を絞りながら、うんざりした声をあげる。
その時、崩れた石壁の上から、ゆったりとした声が降ってきた。
「ふむ……悪くはないの」
全員が一斉に顔を上げる。
さっき戦いを見下ろしていたあの老人が、杖に体を預けて立っていた。
「剣の男、仲間を導く力あり。
盾の男、愚直にして揺るがず。
小娘は力を持て余しておるが、芽は大きい。
……そして猫は……猫じゃな」
「猫じゃなってなんだよ! もっと他に言い方あるだろ!」
ルーンが思わず噛みついた。
老人は小さく笑い、ゆったりと首を振った。
「今はよかろう。……いずれまた会おう」
そう言い残すと、彼の姿は蜃気楼のようにふっと揺らぎ、消えてしまった。
広間には、彼の声だけが余韻のように残っていた。




