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3話 新しい仲間とともに、魔の森を征く!

あたたかい――。


頬に触れる、やさしい光。

桃太郎は、まぶたの裏に射し込む柔らかな朝日で目を覚ました。


地面に寝ていたはずなのに、どこか心地よい。

傍らを見ると、白銀の毛並みが朝の光にきらめいていた。


「……フェル」


フェルが寄り添っていた。

ふわりとした毛並みが毛布のようで、彼の体温がじんわりと伝わってくる。


気づけば、痛みも毒も消えていた。あの死闘がまるで夢のように思える。

しかし、見慣れぬ奇妙な木々、土の匂い、聞いたことのない鳥の声――ここがまだ「魔の森」の中であることを思い出し、桃太郎は身を起こした。


すると、フェルもぴょこんと立ち上がり、桃太郎の顔に鼻をすり寄せるようにして匂いを嗅ぎ、くぅんと安心したように鳴いた。


「……大丈夫だよ。ありがとうな、フェル」


そのときだった。

何もなかったはずの空間に、突如として黄金の輝きが立ちのぼった。

まるで空気が震えるような感覚とともに、金色の大ザル――昨夜の戦いで奇跡のような力を見せた存在が、すっと現れた。


桃太郎が思わず声を詰まらせて見上げていると、フェルが小さく「クゥン」と鳴いた。


「あるじ、名前をつけてあげて」と、フェルが心に響くような声で伝えてきた。


桃太郎は、大ザルをじっと見つめた。

あのとき、自分の限界を超えて力を引き出し、命をつなげてくれた仲間。

この奇跡に名を与えずして、どうする。


「……神の猿、か。魔を去る、って意味も込めて――『マサル』って名前はどうかな」


瞬間、空間が再び光に包まれた。

その中から、ひょこんと現れたのは――体長20センチほどの、金色の子ザルだった。

愛嬌のある顔に、澄んだ金の毛。

だが、その瞳には確かな誇りと強さが宿っている。


「……マサル?」


「うん、マサル。ありがとう、あるじ。おかげで……親父の仇、討てたよ」


マサルはそう言って、ぴょんと桃太郎の肩に乗った。

驚いたのはそのあとだった。


「寝てる間、ずっと俺を守って……?」


桃太郎が周囲を見渡すと、大蛇の死骸のまわりには、無数の魔獣の死体が山のように積み上げられていた。

牙を剥いた大狼、怒りに満ちた熊、黒く禍々しい鹿――どれもこの森で生き残るはずだった強者たち。


それらをすべて――この小さな金色のマサルが、一夜にして屠ったというのか。


桃太郎は言葉を失った。

フェルも、まるで誇らしげに尻尾を揺らしている。


「……すごいな、ほんとに。ありがとう、マサル」


「礼なんていらないよ。仲間だもの」


桃太郎の胸の奥に、ふわりと温かいものが灯った。

ここにきて初めて――自分は一人じゃないと、実感できた気がした。


朝の光が、さらに強くなっていく。

「……ん?」


肉の山を見下ろしていた桃太郎の胸に、ふと異変が走った。

心の奥から、何かが広がるような、不思議な感覚――。


(スキルが……拡張された?)


直感的にわかった。仲間が増えたことで、自分のテイマーとしての力も進化したのだ。

その証拠に、頭の中に新たな言葉が浮かび上がった。


「ストレージ……?」


唱えた瞬間、あたりに積まれていた魔獣の死骸が、すぅっと光に包まれて消えていった。

圧倒的な量だったにも関わらず、すべて一瞬で――


(まさか……収納された?)


理解が流れ込んでくる。時間停止空間に保管され、鮮度はそのまま。

さらに、自動解体、分類管理、調理、錬金といった機能までセットされているらしい。


「すご……まるで万能の倉庫だな、これ」


試しに、ストレージ内から一体――「グレート・ディア」という名の大型の鹿型魔獣を選択。

次いで「自動解体」「調理」を思い浮かべると――


光があふれ、まるでレストランの厨房から出されたかのような皿が出現した。

分厚くカットされた鹿のステーキ。香ばしく焼かれ、湯気を立てている。


「よし、まずは腹ごしらえだな」


桃太郎が笑顔で言うと、フェルがガツンと皿に飛びついた。

ガツガツと迫力満点で肉に食らいつき、尻尾をブンブン振っている。


マサルはといえば、両手で巨大な肉を抱えこみ、自分の体より大きなステーキをぐいぐいと口に運んでいく。

その金色の毛並みに、肉汁が飛び散って光るのもおかまいなしだ。

桃太郎も、大きめにナイフで切り分けて、一口。


「……うまっ……!」


火の通り具合は絶妙。レア気味でジューシーさがありながらも、臭みはなく、柔らかい。

まさに異世界グルメの極致。自然と笑顔がこぼれる。


「こういうの、悪くないな……」


しばし、3人――いや、1人と2匹の、静かな満腹の時間が流れた。

大冒険の序章の、そのほんの一コマ。けれど、確かな絆と成長の手応えが、そこにはあった。


* * *


桃太郎たちは、ジーウィの村を目指して魔の森を駆けていた。

太陽の光が木々の隙間から差し込む中、白銀の狼フェルが先頭を走り、金色の子ザル・マサルが枝を飛び移っていく。


「……信じられないな。あんなに恐ろしかった魔の森を、こんな風に突き進めるなんて」


かつては一歩進むごとに命の危険を感じた森が、いまや桃太郎たちにとっては「フィールド」に変わっていた。

テイムした仲間たちの助けにより、魔獣はもはや脅威ではない。

襲いかかってくる獣たちは、フェルの俊敏な動きでいなされ、マサルの拳一発で気絶し、桃太郎の《ストレージ》に格納されていく。


その道中、マサルは森の薬草を見つけては桃太郎に教えてくれる。


「これは〈ヒール草〉。煎じて飲むと回復が早くなるの」


フェルも、地面に咲く香草や、木の上の甘い実を見つけては鼻先でつついて教えてくれた。


桃太郎は、その都度ストレージに手をかざし、アイテムを保存していった。

採集、分類、保管。まるで冒険者というより調査隊のような正確さで資源を集めていく。


(これは……生きる力そのものだな)


かつての自分なら想像もできなかった“自立”の感覚に、桃太郎は胸の奥が熱くなるのを感じた。

身体能力も確実に向上している。木々を避けながら走っても息が切れないし、地面の起伏も軽やかに跳び越えていた。


結果、本来ならば数日かかると言われていた魔の森の横断は――


「……見て、フェル。あれ……」


木々の間から、夕焼けに照らされた空が開けた。

そして、風の匂いが変わった。湿った森の空気から、どこか人の暮らしの香りが混じる風。


桃太郎たちは、その日の夕方には――

魔の森の出口へとたどり着いていた。

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