第70話 命のなる木と、精霊猫の里
月が冴え冴えと輝く夜。
リクたちは、焚き火を囲んで静かに話し合っていた。
「……この辺りには“命のなる木”を植えられる場所はないよな」
リクがため息をつく。
世界樹の若木の近くは、精霊に守られているとはいえ、まだ人の手が及びすぎている。
王都の城でさえ、政争や陰謀が渦巻き、安全とは到底言い難かった。
万能細胞を生み出す神秘の木――
それは、時に国をも争わせる原因になりかねない。
リク、リリア、ミルナは、幾晩も悩み続けていた。
その時だった。
ふいに、シフの耳がぴくりと動いた。
「……にゃ」
シフは立ち上がり、夜の闇を見据えた。
風に乗って届いたのは、懐かしい香り。
故郷からの、呼び声だった。
闇の中から、ふわりと現れる白銀の小鳥――
小鳥は、シフの肩に止まると、柔らかな声で告げた。
「シフ=ルーナ。里の長老より伝言。
――帰還を許す。そなたとその同志を、迎える用意あり」
言葉として、頭の中に響き、リク、リリア、ミルナは顔を見合わせた。
「シフの……里に?」
「よく分からないけど、行って確かめるしかないな」
リクがそう言うと、シフがにっこりと笑う。
――
精霊猫たちが棲まうという隠された里。そこは、外界から完全に遮断された神秘の地だという。
力なき者は迷い、決して辿り着けず。邪な者は門前で弾かれるという。
「よし……行こう!」
リクは拳を握りしめた。
守るべきものがあるなら、どんな道でも進む。
小さな決意が、夜空に溶けた。
こうしてリクたちは、“命のなる木”を託すべき真の楽園を求めて――
精霊猫シフの里へと、旅立つことを決めたのだった。




