第68話 秘術・青嵐断影
世界樹の内部――
そこは、静寂と光が入り混じる神聖な空間だった。
リクは頷き、そっと隣に立つリリアを見た。
「頼めるか、リリア」
リリアは静かに目を閉じると、背中の鞘から一子相伝の剣“蒼天の刃”を引き抜いた。
「“秘術・青嵐断影”……穢れを断ち、命を繋ぐ刃。父から授かったこの技――今こそ使う時ね」
剣に力を込めた瞬間、世界樹の枝の周囲に、薄緑の風が舞った。
リリアの体がふわりと浮き、彼女の髪とマントが風に翻る。
「――いくわよ」
その声とともに、リリアが一閃。
刃が空気を裂き、まずは腐敗した枝の片側を真っ直ぐに貫いた。
「青嵐断影!」
次に、もう方側と、2度剣を振り、腐敗部を取り除いた。
その断面には美しい年輪が見えていた。
「……成功です」
長老の精霊が、目を潤ませながら呟いた。
リリアは剣を納め、肩で息をしながら振り返る。
「これで……若木を繋げられるわね」
リクは笑いながら、若木を差し出した。
「よくやったな、リリア。やっぱ、お前は最強の剣士だよ」
リリアは少し照れくさそうに頬を赤らめながら、「当然でしょ」と、小さく笑った――
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腐敗した部分が切除された枝の根本に、長老は丁寧に若木を添えた。
小さなゴムのようにしなる若木を慎重に押し当てる。
不思議なことに、若木の根がゆっくりと、腐敗部分の切断面へと絡まり始めた。
「……生きてる」
ミルナが目を見開く。
「これは精霊の力を借りるときです」
長老がそう言うと、里の精霊たちが木の周囲に集まり、静かに歌いはじめた。
その声はまるで風のように、葉を揺らし、空気に命を与える。
若木は光を放ち、根をさらに深く、世界樹へと融合させていく。
そして――
ゴウ……ッ。
地面の奥から、微かに震えるような音が響いた。それはまるで、世界樹が息を吹き返したかのような、生命の鼓動だった。
「……繋がった」
リクがそう呟いたとき、世界樹全体に淡い緑色の光が走った。
枝の先まで、まるで血流のように、生気が巡っていく。
「これで、腐敗は止まるはずです」
長老が深く頭を下げる。
「お前があの若木を見つけてくれたおかげだよ、リク」
ミリアが微笑む。
「いや、見つけたのは……シフだったかもな」
リクは肩に乗る精霊猫を撫でながら笑った。
シフは小さく「にゃっ」と鳴いて、若木に鼻先をちょんと当てた。
木は、さらに一段と光を増す。
このとき、誰もが確信した。
――世界はまだ、生きている。




