第67話 世界樹の中
やがて一際大きな、空へ向かってそびえる巨木が姿を現す。それは他の木々とはまったく異なる気配を放っていた。
「……これが、世界樹?」
「そう。大地を支える、我らが命の源……。しかし今、その一部に異変が生じているのです」
長老が、幹の根元にある、苔に覆われた岩のような扉に手をかざすと、緑の光が走り、扉が音もなく開いた。
「こちらへ――」
扉の先には、木の中とは思えぬほど広く、ぬくもりに満ちた空間が広がっていた。
木の内部を通る通路を進むたび、リクは自分がどこか別の次元に足を踏み入れているような感覚にとらわれた。
そしてたどり着いたのは、中心部の空洞。そこにあったのは――無数の光の根の中に、一本だけ黒ずみ、静かに腐敗が進行している枝だった。
「これが……」
「はい。あの地震は、この腐敗が進み、世界樹の一部が耐えきれずに“ゆらいだ”のです。このままでは、再び大きな揺れが起きる可能性もあるでしょう」
リクは一歩、枝の前に進み出た。
「切るだけではダメそうだな……」
長老の精霊は、黒ずんだ枝を見つめたまま、ため息のように言った。
「……もし、せめて“世界樹の若木”があれば。腐敗した部分を切り取り、新たな命で繋ぎなおすこともできたのですが……」
その言葉に、リクは一瞬、きょとんとした顔をした。そして、マジックバッグの中から――
「……これのことか?」
取り出したのは、ゴムのように伸び、瑞々しい光沢を放つ、不思議な木だった。
まるで生命そのものが鼓動しているかのように、緑の光を帯びている。
精霊たちがざわめく。
「それは……まさしく……!」「間違いない、世界樹の若木だ!」
長老が目を見開き、リクに駆け寄る。
「リク殿……!それを、どこで手に入れたのですか!?」
「ちょっと前、森で偶然見つけて。あまりにも変な木だったから、なんとなく持ち歩いてたんだ。まさか、こんな使い道があるなんて……」
精霊たちは皆、神妙な面持ちでうなずいた。
長老は若木を両手で包み込み、そっと耳を当てるようにして言った。
「……この若木、世界樹の本体と繋がりを感じています。これなら、きっと再生のための“継ぎ木”になるはずです。リク殿……この若木を、世界樹に授けていただけますか?」
リクは笑ってうなずいた。
「もちろん。こいつの居場所は、最初からここだったんだな」
若木が、まるでそれを喜ぶかのように、ふわりと緑の光を放った――




