第66話 精霊の住処
宿のリクの部屋に集まり、ミルナのもとに届いた書簡を開けることになった。封蝋には、ダークエルフの里でも特に神聖な存在とされる精霊の里・エアルティスの紋章が刻まれていた。
封を切った瞬間、風がふわりと舞い、手紙が空中で広がった。そこには精霊長からの直筆と思われる文字が、淡い光を放ちながら綴られていた。
> 「地脈に異常あり。封印作戦時の地震について、至急、リク殿とお話ししたい」
ミルナは眉をひそめた。
「……地脈に異常あり?」
その声に気づいたリクがキッチンから顔を出した。
「どうかした?」
ミルナは手紙を渡しながら言った。
「精霊の里から連絡があったの。あの封印作戦のときの地震――ただの自然現象じゃないかもしれないって。リク、あたしたち、行く必要があるかも」
リクは少し考えてから、真剣な眼差しでうなずいた。
「……わかった。世界樹の話となれば、この世界の根底に関わることだ。放ってはおけないな」
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ミルナの案内で、リクは精霊の里を訪れた。
柔らかな風が木々の葉を揺らし、光の粒がふわふわと漂う神秘の森。その奥に、精霊たちの住まう里が静かに佇んでいた。
迎えに出たのは、長い白髪に透き通る瞳を持つ長老の精霊だった。
「リク殿……よくお越しくださいました。あなたに、お見せしなければならぬものがあります」
リクが静かにうなずく。
「実は、先の地震の原因について、我々もようやくその源を突き止めました。ついて来てください」
リクは長老の後を追って、森の奥深くへ進んだ。
森の奥――霧が立ち込め、音すらも吸い込まれるような静寂の中。
リクたち一行は、ダークエルフの里をさらに越えた精霊の領域――“精霊の住処”の入り口にたどり着いていた。
だが、そこには目に見えぬ結界が張られており、人の気配を拒むように、木々さえも壁のように立ち塞がっていた。
「……入れない」
ミルナが眉をひそめて呟く。リクも手を伸ばすが、空間が歪むように押し返される。
「俺たち、歓迎されてないっぽいな」
そのときだった。
「にゃっ」
シフがリクの肩から飛び降り、するすると前へと進み出る。風のように軽やかな足取りで、結界の前まで行くと、ぴたりと立ち止まる。
「シフ……?」
リクが呼びかけようとした瞬間――
光が舞った。
淡く青い風の精霊たちが、どこからともなく現れ、シフの周りをくるくると舞い始めた。そして、ざわめくような声が辺りに響き渡る。
「まさか……」
「この毛並み……瞳の光……」
「伝承にある“月下の導き手”……!」
結界が風に吹き飛ばされるように、静かにほどけていく。道が開かれたのだ。
驚くリクたちの前に、背の高い光の衣をまとう精霊長が現れた。彼は深々とシフに頭を下げる。
「お導きの者よ……よくぞ戻ってくださいました」
その言葉とともに、精霊たちはリクたちにも一礼する。
「導き手と共にある者に、拒む理由はありません。我らが里へ、どうぞお入りください」
リクはきょとんとしたまま、シフを見下ろす。
「おまえ……なんでそんな偉いの?」
シフは誇らしげに、しっぽをふんわり揺らし、いつものようにリクの頭へぴょんっと飛び乗った。
「にゃ」
そして、精霊の結界の向こう、光の揺れる里へと、リクたちは足を踏み入れた。




