第60話 温泉と、スパイシーな香りの午後
リクたちは、王都の北東に位置する山間の静かな地に建つ、温泉つきの別荘へと招かれていた。
それは王から直々に与えられた、勇者たちへの感謝と労いの証だった。
湯気の立ちのぼる露天風呂、森の息吹を感じる木造の広間、美しい湖を見下ろすテラス。
自然に包まれたその場所で、リクたちは久しぶりに肩の力を抜いていた。
リク:「……これが“しばしの休息”ってやつか」
リクはエプロン姿で、炊事場に立ちながら微笑む。
遺跡都市から持ち帰ったレシピ本を開きつつ、鍋でじっくりとカレーを煮込む。
横ではミルナが果物をカットし、リリアが焼き菓子用の型を並べていた。
和やかな空気の中、カレーのスパイシーの香りが広間に漂い始めたそのときだった――。
「ごめんくださいませ」
ふいに扉の向こうから、澄んだ声が響いた。
リクたちが驚いて顔を上げると、扉の前には、優雅にドレスをまとった王女・アリアシアが立っていた。
「ア、アリアシア殿下!?」
アリアシア:「ふふ、そんなに驚かなくても。今日は慰安の名目で来たのよ」
そう言って、控えめに笑う王女は、いつもの宮廷での凛とした姿とは少し違っていた。
お淑やかでありながらも、どこか自然体で、森の風景にすっと溶け込むようだった。
アリアシア:「……まぁ、なんて食欲をそそる香りでしょう」
だが、アリアシアはほんの少し、首をかしげるように問いかけた。
アリアシア:「こちら……何か特別なお料理でしょうか?」
リク:「あっ、これ……“カレー”って言います。古代のレシピに載ってたんです。あと、お菓子も少し……」
アリアシア:「まぁ。そんな貴重な書物から……。よろしければ、少しだけ、いただいても?」
リク:「は、はいっ!もちろん!」
リクが慌てて皿を用意すると、リュティアは袖を整え、上品にスプーンを手に取る。
一口、そして二口。
アリアシア:「……っ。とても、美味しいです。体の中から力が湧くような、不思議な感覚……。お食事させてもらっても宜しい?」
リクはすぐににっこり笑って答えた。
リク:「もちろん。むしろぜひ食べてみてください」
こうして王女アリアシアを交えた、特別な食卓が開かれた。
王女の訪問はささやかながら心に残るひとときとなり、この日をきっかけに、王都の食卓には新たな料理「勇者のカレー」が加わることとなった。




