第48話 バグナイト改
禁域の奥地。そこは、旧時代の環境汚染と魔素の暴走により、自然界の法則がねじ曲がった異常地帯だった。
無数の魔物がうごめく中、ひときわ異様な存在感を放つ巨獣がいた。
三つの頭、うねるような長い胴体、毒霧すら吐き出す忌まわしき存在――ヒュドラ。
その咆哮が空気を裂き、地面が揺れるたびに周囲の魔物ですら震え上がる。
コロロが警告を発する。
コロロ:「脅威ランク:極高。推定戦闘力、S級以上。戦闘回避ヲ強く推奨シマス」
リク:「わかってる、コロロ。あいつは――本当にヤバいやつだ……!」
緊張感が張り詰める。
だが次の瞬間、リクがなにかに目を奪われた。
リク:「……なに、あれ」
彼の視線の先にいたのは――
巨大な甲冑をまとったようなカブトムシの変異種だった。
全身は青黒く光り、背中には羽ではなく“金属板”のような装甲。
その角は、まるで古代の大剣のように鋭く、堂々とした佇まいで朽ちた柱の上に鎮座していた。
リク:「か、かっこいい……! いや、あれ、絶対レア種だろ!? むしろ図鑑にすら載ってないってレベルじゃ……!」
――こうして、最悪級魔獣ヒュドラを前にしながらも、リクは変異カブトムシに夢中になっていた。
リク:「このツヤ、角の形……完璧すぎる。絶対に捕まえる……名前は“バグナイト改”だ!」
――その背後。
獰猛な魔物たちが、ひっそりと近づいていた。
岩のような体をもつ地獣トリルオーガ。
空中から滑空してくる魔鳥バルクロウ。
そして、三つの首をもつ“ヒュドラ”が、重々しく地を這い寄ってくる。
リクはそれに気づいていない。
ただただ、目の前のカブトムシをじっと見つめているだけだった。
――しかし、リクの体は反応していた。
リクは視線を外さず、指先だけで“パリイ”を発動。
オーガの攻撃を軽くいなすと、反動でオーガの巨体が吹き飛び、後方の岩にめり込んだ。
次に襲いかかったバルクロウの爪がリクの頭上に振り下ろされる。
リク:「……ジャマするなよ」
視線をそらさぬまま、リクがパリイする。
爪が軋み、逆回転してバルクロウ自身を切り裂いた。
そして、ヒュドラの三つの首が一斉に襲いかかる。
その瞬間―ついにリクの意識が一瞬だけヒュドラへと向く。
リク:「パリイ」
次の刹那、三つの首は“同時に”逆方向に吹っ飛び、地に転がった。
大地に重い沈黙が戻る。
コロロがぽつりと呟いた。
コロロ:「……戦闘終了。脅威対象、全滅ヲ確認」
ようやくリクがバグナイトから目を離し、背後を振り返った。
リク:「……え? 魔物、いなくね?」
かくして、一人のカブトムシ虫好き少年によって、誰も知らぬうちに魔物の脅威は取り払われていたのだった




