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第26話 最後の一振り その1

 バルゴが明日から作業に入るというその夜、工房に現れたのは、バルゴの娘だった。


 少女の名は――ミナ。

 バルゴの娘にして、工房を支える若き鍛冶師見習いだった。

 

 彼女は悩んでいた。


 父・バルゴは、不治の“魂喰みの病”に蝕まれており、次に一振りでも剣を打てば、命に関わると医者に言われていたのだ。


 一方で、バルゴの夢が、自分の技術のすべてを注いだ“魂の剣”を、ふさわしい者に託すことであることも知っていた。


 ミナ:「……お父さん、ほんとに明日、始めるつもりなの?」


 バルゴはミナの指し出すお茶わ無言で受け取る。


 手のひらのひび割れは、年季の証であり、病の進行も表していた。


 バルゴ:「ああ。明日が、最後の槌だ。……わかってるだろう、ミナ」


 ミナ:「わかってるよ……でも……!」


 ミナの声が震える。

 彼女はテーブルの上に置かれた、父の道具袋を強く握った。


 ミナ:「もう十分よ。お父さんは何十年も、ドワーフの誇りを背負ってきた。何百本も剣を打ってきた。今さら、命まで削ってまで……!」


 バルゴは静かに立ち上がり、窓の外を見た。

 そこにはリクたちが野営している灯りが見える。


 バルゴ:「……あの2人は試練を乗り越えた。その時、こう思ったんだ。“こいつらは、世界を守る”って。剣姫リリアに、我が魂の剣を託さねばならん。……それが、わしの意地じゃ」


 ミナ:「意地で……死なないでよ」


 ミナの声が小さくなった。


 バルゴはゆっくりと振り向き、彼女の頭にそっと手を乗せた。


 バルゴ:「心配するな。死ぬつもりはない。ただ、魂を込めて……一本だけ、打つ。それだけだ」


 ミナ:「……それを、みんな“死ぬ”って言うのよ、頑固親父……」


 ミナは涙をこらえながら、父の手を握った。


 ミナ:「せめて……私も一緒に炉に立たせて。最後の槌打ちは、二人でやるの。……約束」


 バルゴの瞳に、わずかに潤みが宿る。


 バルゴ:「……ああ。お前の一打も、刻んでくれ。これは“親子の剣”だからな」


――翌朝、工房には二つの影が立ち、静かに火が灯った。


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