第16話 影より見る者、ミルナの警戒
訓練場では、元剣聖ガルムとリクの最後の軽い手合わせが行なわれていた。
――いや、周囲の地面が抉れ、木々がなぎ倒されている時点で、軽いとはとても言えない。
剣の一閃、殺気すら帯びた踏み込み。
だが、そのすべてを、リクは――
リク:「パリイっと」
――指一本、あるいは小さな肩のずらしで、全て受け流していた。
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その光景を、木陰から見つめていたのは、ダークエルフのミルナ。
森の中で鍛え上げられた彼女の視力は、剣戟の一瞬すら逃さない。
しかし、だからこそ“見えた”のだ。
ミルナ(……この人間、避けていない。受けてもいない。ただ、“消している”……!?)
ガルムの剣は、かつて一国を滅ぼしうるとさえ言われた達人の技。
それを、リクはパンの袋を手に持ったまま、涼しい顔で受け流している。
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ミルナ(以前、私がリクと出会ったとき……ただの少し変わった青年だと思った。
だが、あれは仮面……!?)
リクの無意識な動作の一つ一つに、彼女の長年の暗殺術と戦場の勘が反応する。
その無自覚さが、むしろ恐怖を呼び起こす。
ミルナ(しかも、ガルムの“剣気”を何度も浴びても、心が乱れていない……。まるで剣聖さえ“日常の空気”だと錯覚しているかのように……
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ミルナ(――この男は、“世界の均衡を揺るがす”存在かもしれない)
彼女は静かに踵を返す。
そして、独り言のように呟いた。
ミルナ:「……このまま放っておくのは、組織にとっても危険だ。どこかで、対策を――」
その言葉に、風が答えたかのように、遠くの森がざわめいた。




