#1 危険な出会い
居室に入り、荷物を置いて少し気が楽になった。
1人で乗合の馬車に乗るのも、手続きをするのも初めてだったから。
コンパクトな部屋だけど自分1人の部屋としては十分。
小さなキッチンにバスルームまで備えてある。
まずは荷解きをして…鐘が6度鳴る前に日課のトレーニングを終えて…
考えているうちに笑みが溢れてくる。
ここには口うるさい家庭教師はいない。
いつに寝て、食事をして、食事をせず菓子を食べても自由なのだ。
1人で寛ぐには十分のバルコニーにリラックスチェアを出して過ごしてどれぐらいの時間が経っただろう。
お風呂上がりにバスローブだけ着た姿で。
だんだんと赤く染まる空をのんびりと眺めていた時、ふいにバルコニーの柵に人が飛び乗った。
まるで獣のように。
「え…?」
ここは5階だ。ありえない…!
「こ…ころ…す…こころすころす…」
血走った目に口からは涎が垂れている。
明らかに正気じゃない!
「あなたは誰なの!どうして私を殺すの?」
身を起こして必死に叫ぶも彼には届いていない!
「ころす…ころす…!!」
そう言うと小さなナイフを持って飛びかかってきた。
小さなサイドテーブルを投げて応戦するもまるで効いていない。
彼に胸ぐらを掴まれバスローブが乱れるがこちらもされるがままではない。
思い切り足を振り回して蹴りを入れると…急所に当たったようだ。
彼は股座を押さえながら声にならない呻き声をあげて座り込む。
その隙に後ろへ周り、バスローブの紐で彼を縛り上げた。
「あなたは一体誰なの?なぜ私を襲ったの?」
彼はしばらく呻き声を上げて痛みに苦しんでいたが不意に顔を上げた後に硬直する。
バスローブの前がはだけて全て丸出しだったのにこの時気づいた。
私はそっと手刀で彼を気絶させた。
「ここは…?」
程なくして彼が目を覚ました。
「私はレイネ。あなた何も覚えてないの?」
「俺なんで縛られてるんだ?…頭が痛い…」
「あなたはバルコニーに侵入して私を殺そうとしたのよ。でも明らかに正気じゃなかったと思う…。けど申し訳ないけど先生に連絡させてもらったわ。間もなく来ると思う。」
彼は黙ってしまった。思い悩むような険しい表情で。
「……すまない。時々記憶が抜け落ちていることがあるんだ。でも人を殺そうとしたのは初めてだ。」
記憶がないのに何故言い切れるのか。
「俺はアルフレッド。明日からここの生徒だけど…入学前に退学かな…」
「残念だけどそうかもね。女生徒の部屋に侵入したんだもの。」
その時ドアを激しくノックする音。
「レイネさん大丈夫ですか!ドアを開けますよ!」
寮へ案内してくれた先生と大きなメガネをかけた大柄な先生。
「運良く拘束できましたがナイフで刺されそうになりました。でも明らかに彼は正気でなく、動きも異質で…実際覚えてないようです。」
「何かに操られていたのでしょうか…。ともかくお怪我はありませんか?念の為医務室へ行きましょう!」
「いえ、怪我はありません。それよりも彼を連れ出していただけますか?少し疲れてしまって…休みたいです。彼からも事情を聞いて下さい。」
「わかりました。彼を連れ出て、また食事を持って出直して来ましょう。夕食を食べ逃してしまったでしょう?もう食堂が終わってしまってますし。」
確かに、とっくに日は暮れていた。
「ありがとうございます。」
「その前に…この部屋に魔の者を寄せないために結界石を置いていきましょう。ドアの外にも護衛がいますからね。何かあったらすぐに連絡を。」
そう言ってテーブルの上に拳程の結界石を置く。室内用ではなく、小さな村を守れる程の大きな物だ。
大柄な先生がアルフレッドを担ぎ部屋から全員出ていった。
疲れたな…
やっと気が抜けてベットに倒れ込んだ。
学園に来てからわずかの時間で自由とは危険との隣り合わせだと知った。