悲壮のワルツ
?
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
痛い
僕は必死に左目を抑えている。
右目からは頭からでもなく鼻からでもない自身の右目と平衡感覚にある場所から流血している。
血?
認めたくない。
それでも現実は無情なまでに僕の神経を刺激してくる。
かろうじて意識はあるがその意識もそう長くは持ちそうにない。
甲高い笑い声が聞こえる。
僕を指さして笑っている。
あざだらけの僕の体。
血だらけの右手
冷たい床
無造作に投げつけられた僕の衣服。
まるで今の僕は胎内から子宮口を通じて生まれてきたばかりの血まみれの赤子のようだった。
左目が欠損し、脳の構造も他人よりも劣っている。そんなみじめな忌み子がこの薄暗い教室にはいる。
僕はここで死ぬのだろうか。
しかし走馬灯は流れない。
まだ死なないから流れないのか、走馬灯としてよみがえるそんな思い出が僕にはないからなのか。
そんなことは分からない。
そんなことを考えていても意識が遠のいていくばかり。
脈は激しく動悸しており意思と意識が対抗している。
死にたい体と死ねない体、生きようとする意識と死のうとする意思。
そのどちらも今の僕にとっては正しい答えではない。
倫理や法律は人間が作ったエゴそのものである。。
少年法、死刑制度、強姦罪、法解釈における論理解釈の考え方
僕には人権があって人権がない。
文法的にはおかしいが、文章的にはおかしくない。
遠のいていく意識。
最後に僕が見た景色は黒だった。
体が重い...
体が揺れているのは電車による自転のせいなのだろうか。はたまた僕のメンタルが起因しているのだろうか。
周りを見渡すと僕と同じように会社という名の懲役60年の刑務所に収監された囚人たちの姿がちらほらと見れる。
椅子に座り睡眠をとることで疲れをとるもの。自己啓発本を読み自身の成長を促進するもの。まだ新入社員なのだろうか、希望に満ち溢れた目をして
入社式案内の資料を読むもの。
この護送車の中には多種多様な人間がいた。
今の僕はそのどれらでもない。
今日もまた一駅、一駅と刑務作業が近づいてくる。
自然と涙も出てきそうになる。
今日も刑務官が僕を待っている。
ぴんぽーんぴんぽーん{電車のドアが開く音}
僕は重い足取りを上げながら自身の意思?で今日も改札を通った。
第2営業部
僕はいまここで営業として仕事をしている。
部内は繁忙期ということもあり殺伐としており皆が一心不乱にパソコンとにらみ合ったり外回りで1日中営業をしたりと
忙しない社内になっていた。
まだ朝だというのに異様な雰囲気を放っている。
今にも飲み込まれそうなほどの圧迫した空気感
定刻通りに出社した僕だが時間通り来ているのは僕だけ。
タイムカードを切ると今日の始まりを告げるピピっという何回も聞いた音がなる
しかし普段なら響くこの音もタイピング音や電話対応での会話の音によってかき消される
僕は努力が嫌いだ。
今僕以外の人間はおそらくタイムカードをまだ押していないと思う
いわゆるサービス残業というやつだ。
今の時代コンプライアンスなどが厳しくなったことや社会情勢の影響もあり、社内でもサービス残業の撲滅や、
残業は基本せず次の日に持ち越すように指導されている。
ただ実際はというと今のようにサービス残業もするし家に帰るものが終電ぎりぎりの者もいる。
なぜか
会社からは当然ノルマを課される
管理職が予算を達成するように上層部から詰められ
管理職にヒラが予算を達成するように詰められる。
一部定時にしっかり仕事を終わらせノルマを達成するものもいるがこれは少数派でありおおよその社内の人間は残業をしないと終わらない
管理職も数字を求められてるのでサービス残業は注意したいが黙認しているという状況が生まれている。
まぁ僕は意地でもそんなことはしないが
仕事は嫌いだ
正確には仕事というよりも人間関係という社内のしがらみが嫌いだ
今日も僕は怒られるのだろうか
基本的に僕は報告連絡相談をしない
ばれなければ犯罪ではないしね
世の中生きていて、鳥が鳴いていても、散歩をしている人がいても、野良猫を見かけてもそれはふとしたただの日常であり
何も自分の人生において影響はない。
極論人を殺したってそうだ
たとえ見かけない、どこかへ消えてしまったことに気づいた人間がいたとしても
100%死んだと決めつける人間はいないだろう
死体を完璧に隠せばそれはシュレーディンガーの猫と同じ状態になる。
生きているかも知れないし死んでいるかもしれない。
こうした状態を作り出すことが出来る。
いつかやってみるのもいいかもしれない
まぁそんなことを考えるよりも前に昨日全て投げ出した仕事を片付けるのが先だけど
僕はそんなことを考えながら仕事を片付けるため自身のデスクへと向かおうとする。
しかしそんな僕の気持ちとは裏腹に激しい騒音の中、僕の名前をはっきりと呼ばれた。。
「如月君!!また発注の見積もり先方に出すの忘れたの!?これでいったい何回目!?」
「7回目です」
「7回目ですじゃないよぉ!」
僕にこう毎日のように叱責してくるこの女は神崎真昼という。
ウェーブかかった茶髪ロングの髪にぱっちりとした大きな目と長いまつげ
決してスタイルが物凄くいいというわけではないが誰からも見てわかるほどスラっとしている。
僕の1年目の頃の教育係であり、僕の上司である。
いつも基本うるさく会社内の人間との友好関係も良いある意味僕と正反対の性格の人間だと思う。
少し仕事ができるだけで偉そうにしている感があり
毎日夜遅くまで残って仕事をしているが僕には上司へのご機嫌取りにしか見えない。
だって仕事なんてものはない方がいいに決まってるんだから。
「ちょっと!話聞いてるの!?」
「聞いてますよ..」
「はぁ...なんで毎回同じこと言わせるの?何か分からないことがあったらすぐ聞いてって言ってるよね?
別に分からないことは恥ずかしいことじゃないんだよ?」
「...」
神崎は僕の眼をじっと見つめてそう僕に問いかけてくる。
僕は黙ってしまう。。
何がわからないのかがわからない。
仕事の内容が分からないから見積もりを出さなかったのではない。
出し忘れたんだ。
他の仕事も教えられた時には分かっていてもいざ一人でやると出来ない。
僕は入社してからずっとそうだ。でもわかってくれない。
誰もわかってくれない。
皆自分の努力が足りていないやら、やり方が悪いとやらで僕の気持ちを一蹴してくる。
だから僕はもうわかってくれとは言わない。
期待したらしただけ損なのだから。
「はぁ...まぁやってしまったものはしょうがないけどさ...」
彼女はあきれた表情でぐっとうなだれた。
「あのもう戻っていいですか?」
「戻っていいですかって...まぁ如月君はこういう子だもんね..(小声)ごめんね!私もちょっと怒っちゃて,
もう戻っていいよ」
彼女は僕にあきれているようで何か言いたげな表情だったが僕にはそんなことは関係ない。
とりあえず今は自分のやるべき仕事をしなければ。
僕は今やるべきタスクを終わらせるため自身のデスクへと向かった。
「はぁ..」
思わずため息が漏れる。
汚く散らかった机にある散乱した資料や無数のメモ代わりの張り紙。
ぐちゃぐちゃに絡まっているコード類
そんな僕の机は明らかに周りと比べても異質な空間を作り出している。
今回提出し忘れた資料もおそらくこの散らかった資料の中にある。
前回も前々回も同じパータンだったから。
それでも僕は治すことが出来ない
やろうとしてもすぐに元通りになってしまう。
そんな自分が時にはいやになるがもう僕には受け入れるという以外の選択肢がなかった。
もう頑張ることも疲れた。
正確には頑張ってはいないのかもしれないが僕にはそんなことはもうどうでもよかった。
「片づけるか。」
僕はまず朝一番の大仕事として掃除から始めることにした。。。
数十分後...
「ふう、すっきりした..」
自身の努力の甲斐もあり散乱していた資料はきれいにファイルにまとめられ、いらないメモ類も取捨選択されたことですっきりとしたデスクになる。
時間はかかってしまったがこれは良い仕事をするうえで必要なことなんだ。
まだ今月は1件も契約をとれていない。
僕は確かに不注意が目立つが人よりも人間性やアイデア力、が優れている。
僕はこんなところで負ける人間ではない
僕は自分にそう言い聞かせ、顧客ファイルに手を伸ばす。
「朝から仕事もせずにお掃除なんて良い御身分ですね。」
急な声に思わず僕は振り返る。
そこには同期の水原弥生が立っていた。
社内での成績は常にトップを維持しており仕事にミスが存在しない完璧人間である。
艶やかな髪に冷酷な目をしており物怖じしない性格からか物言いが常にストレートであり常に人の地雷を踏みぬいている。
社内からは恐れられていつつも他人の仕事を手伝うという端から見たら優しい一面も持ち合わせており、
神崎とはまた違った信頼をされている。
しかし僕とは入社直後から非常に仲が悪く基本連絡以外では話すことはない。
しかしたまに今回のように分かりやすい嫌味を言ってくることがある。
これは持論だが顔がいいものは皆総じて性格は終わっている。
「別に自分の机を掃除するくらいいいだろ、別にこの後も仕事しないって言ってるわけじゃない。」
「でも今11時ですよ?あなたがご丁寧に自分で散らかした机をご丁寧に整理するという生産性が1ミリもない行為にいったい何時間かかっているんですか?」
彼女はそう言いながら時計を指指しながら僕を煽る。
数時間立っていたのは気づかなかったが僕がこいつにそんなことを言われる筋合いはない。
確かにこいつは僕よりも契約が取れているのかもしれないが僕と同じただの平社員であり、上からものを言われたくはない。
争いは同じレベルの者同士でしか生まれない。
そんなことが頭によぎったが僕は水原に対して怒りの感情を覚えてしまった。
今ここで法律がなくなってしまえば僕はこいつを犯すこともできる。
殺すことや殴ることだってできてしまう。
しかしルールという縛りが僕の欲求を抑えてしまう。
僕は水原を頭の中で犯す。
水原の上に覆いかぶさり強引に服を脱がす。
透き通った白い肌
黒いブラウスからはみ出しそうになっている乳房
今にも僕を殺してきそうな鋭い眼光
そのすべての様子が僕の欲求を刺激してくる。
水原が2人いる。
1人は叫んでいるが何を言っているのかよく聞こえない。
もう1人は淡々としゃべっているがよく聞こえない。
怒りとエロ
そんな感情が同時にかつ並行して昂ぶっている。
叫んでいる方は殺してやった。
散々膣内に出した後に殴って殺した。
話している方は汚物を見るような目でこちらに何か言い放ったのちにどこかに行ってしまった。
5分ほどたっただろうか。
少しずつ意識がはっきりしてきた。
下腹部に少し違和感があった。
違和感の正体はすぐに分かった。
僕の陰部は大きく膨張しており射精していた。
朝から最悪の気分だ。
神崎には怒られ、水原には大したことでもないことでいちいち突っかかられる。
挙句の果てにはパンツの替えもないため気持ちが悪いしまったく仕事も手につかなかった。
時計を見ると針は昼の12時ちょうどを指している。
こうして僕は大した仕事もできないまま昼休憩の時間を迎えてしまった。
昼休憩といっても僕はどこかに飯を買いにくわけでもなければどこかに食べに行くというわけでもない。
僕は年中金欠のため家から持参したおにぎりを階段の下で食べている。
本来は自身のデスクで食べたいのだが周りから視線や急な仕事が振られてしまう可能性があるためデスクでは食べないようにしている。
僕はいつものようにバッグからおにぎりを取り出し階段へと向かおうとデスクから立ち上がった。
その時ふと僕は神崎に呼び止められた。
「如月君!今ちょっと時間いい?」
「今から昼休憩なんで後からでもいいですか」
「別に仕事を振ろうとかお説教ってわけじゃないよ。もしこの後いつも通り階段飯しようってなら私と一緒にランチでもどう?おごるからさ。」
「遠慮しておきます。誰かと食べる飯好きじゃないんで。」
奢ってもらえるというのは金欠のぼくにとっては非常に魅力的な話だがそれは即ち、上司との一対一面談になりかねないということである。
それは僕にとっては地獄そのものである。
「ふーん、誰かと食べる飯は好きじゃないって如月くん会社のだれかとごはんなんて一緒に食べたことないでしょ?ほんとにお説教ってわけじゃないから、ね?」
彼女はそういうと僕の返事の有無を聞かず僕の手を握り連れ出そうとしてくる。
神崎という人間性が僕は本当に嫌いだがここで一度折れてもいい。
僕は渋々神崎に連れられ街へと繰り出していった。
普段の帰り道とは違い外は太陽に照らされ一段と輝きを放っている。
学生や社会人の数も多く夜とは違う風景が広がっている。
いつもなら一人で帰る帰り道
しかし今は隣に神崎がいる。
おかしい状況
今すぐにでも帰りたいが帰るわけにはいかないので仕方なく付いてきてしまっている自分が嫌になる。
「ついたよ。パスタとかって食べれる?ここ私のお気に入りの店でよくランチで行くんだけどね、パスタ苦手だったら他の店を探すけどどうかな?」
「別に...食べれるんでここでいいですよ。」
「ほんと?よかった、じゃあ入ろっか。 すいませーん!二人なんですけどいけますー?」
神崎はそういうとそそくさと店内に入っていった。
僕もそれを追いかけるように店の中に入っていた。
決して新しくもないきれいとも言えないごちゃごちゃとした店内
けれども汚いと一言で言うには少し違った
言い方をすれば趣のあるというのだろうか
店主も70代ほどの白エプロンを着たよぼよぼの老人で決してチェーン店では味わうことのできないそんな空間であった。
そんな中で僕は今嫌いな上司と狭い店内のテーブル席で対面している。
「ここのパスタねほんとにおいしいんだよ。ナポリタンもおいしいしペペロンチーノも、特に私が最近食べた特性ナポリタンなんてね..
「話が長くなりそうなんでそこらへんでいいです。僕は神崎さんのおすすめでいいですよ」
「あっごめんねつい、、そうだな、やっぱり一番はナポリタンかなぁ...すいませーん!ナポリタン二つください!」
神崎は狭い店内では過度なほどのでかい声でパスタを注文した。
15分ほどたっただろうか
鉄板に乗っけられた見るからに暑そうでおいしそうなナポリタンが運ばれてくる。
最初はあまり乗り気ではなかったがさすがにこれは金欠の僕にとってはご褒美この上なかった
「いただきます。」
僕はそういうとナポリタンに舌をうならせる
うまい
濃厚にパスタと絡み合うケチャップにしっかりと茹で上がった麺
先ほどまでの嫌なことを忘れてしまうほど美味しい飯がそこにはあった。
僕のフォークは止まることを知らず物の数分で平らげてしまった
「おいしかった?」
「おいしかったです、」
その答えを聞いた神崎は少しほころんだ表情をする
「よかった、気に行ってもらえて、でも如月君、きみもタダでおごってもらえるなんて思ってないよね?」
「えぇわかってますよだから行きたくなかってんですから、」
「分かっててくれて助かるな。まぁでもほんとに説教ってわけじゃないから安心して。」
彼女はそういうと少し深刻そうな表情になる、
「あのね今日折り入ってランチに誘ったのはほかでもない水原さんのことなんだけど。」
数秒の沈黙の後に彼女は再び口を開く
「なんでかね、私には二人が同期として入社して以来ずっと仲が悪いように見えるんだけど何かあったの?」
完全に仲を悪くさせようとしてるのは水原の方だろ。そんな言葉がふと僕は口から出そうになるがグッと飲み込む。
「別に何もないですよ、元はと言えば水原が何かと突っかかってくるんです。」
「突っかかってる?そんな風には見えないけどなぁ、特に如月君には」
「突っかかってきてるじゃないですか。何かと僕の揚げ足を取るようなことを言ってくるし、最近なんて人を罵倒してくるんですよ。」
「揚げ足,,,?罵倒...?そんなこと水原さん言ってたっけ、、」
「まぁいいや、とにかく私は凄く水原さんと如月君の仲が悪くなっちゃってると思ってね、二人にはせっかくの同期なんだし仲良くしてほしいと思ってるんだよね。」
「無理ですよ、僕にその意思があってもあいつにはその意思なんてないですよ。」
「じゃあ水原さんと意思疎通図ったことあるの?」
「それはないですけど...」
「じゃあ聞いてみなきゃわかんないじゃん。」
神崎は疑問そうな顔で聞いてくるが僕には水原が僕を目の敵にしていることは言葉の節々からも十分に伝わってきている。
そんな分かりきったことをいちいち水原なんかに聞く必要なんてないはずだ。
第一僕は元々人付き合いなんて嫌いなんだ。
おそらく神崎は僕とは正反対の思考回路を持っている。
そんな人間に僕の考え方や気持ちなんてわかるはずはない。
「どうして水原とそんなに僕を関わらせようとしてくるんですか。別に僕が誰とも友好関係を気づかなかろうが僕の勝手じゃないですか。」
僕は思わず口調が強くなってしまう。
「そうだね...確かにそれは如月君の言うとおりだよ、別に会社は結果さえ出してれば文句を言われることもないし今の水原さんみたいに孤高の人間として生きるというのも間違いじゃない、
でもね私は実際数字を圧倒的に出せるわけじゃないしミスだってするよ、それでも私は今水原さんや如月君に指導をすることが出来るまでに成長することが出来た。ねぇ如月君どうしてかわかる?」
「分かりません。」
「人一倍努力をしたからだよ。ちょっとかっこいい言い方になっちゃったけどね。正確には先輩や同期に助けがあってここまでやってこれたって感じなんだけどね。まぁあくまで個人的な経験から導き出した考え方だからこれが正しいとかってわけじゃないんだけどね。」
「ちょっときつい言い方になっちゃうけどさ、今如月君は仕事が人一倍できる訳じゃないし、数字もいっぱい残してるわけじゃないよね?今の如月君はどちらかというとまだ未塾なんだよ。でもね未熟だったり、迷惑をかけちゃうことが悪いことだなんて思ってはないよ。若いうちは迷惑なんていっぱいかけちゃえばいいと思う。先輩たちがもらってる給料の中には実質迷惑料も含まれてるんだからさ。」
神崎は昔のことを思い出しているのかしみじみとしたそんな表情で話す。
「つまりさ私が言いたいのはさ、せっかく先輩や同期がいるのに誰にも悩みも言えず相談もできず迷惑かけても知らんぷり、そんなんじゃ自分がつらいだけだし敵も作っちゃうだけだと思うよ。」
「...」
「だからさ今からでも遅くないからコミュニケーションをもっと取るとか報連相そしっかりするとか仕事以外でも少し改善してみない?」
彼女は不安げな表情の中上目遣いでこちらを見る。
「善処します。ごちそうさまでした。」
僕はそういって立ち上がりこの場を後にした。
後ろから神崎の声がしたが立ち止まることはしなかった。
この場からすぐに立ち去るために。
何も言い返せなかった。
全て正論なのはわかっていた、彼女の考えは理解できないそれでも言っていることは理解できてしまう。
脳のエラー
神崎のあの表情、匂い、声全てに反吐が出る。
「クッソ、クッソ、クッソクッソ、クッソ、クッソクッソ、クッソ、クッソクッソ、クッソ、クッソクッソ、クッソ、クッソクッソ、クッソ、クッソクッソ、クッソ、クッソクッソ、クッソ、クッソクッソ、クッソ、クッソ、クッソ、クッソ、クッソ、クッソ、クッソ、クッソ、クッソ、クッソ、クッソ、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
「限界だろこれ」
鳴き声がかすかにする。
死後硬直なのか死んでいないのかは知らない
頭に足を叩きつける
気分は晴れない
「なんでだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
何度も何度も叩きつけるうちに僕の足は真っ赤になりおもちゃはミンチになってしまった。
この後も何度か試したが気分は晴れなかった
僕の精神が安定しない。
「「そんなんじゃ自分がつらいだけだし敵も作っちゃうだけだよ」」
何度もあの場面がフラッシュバックする。
日はもう落ちそうになり携帯には大量の不在着信が入っている。
今日はもう帰ろうか。
会社に今更戻る気もしない。
だからと言って家に帰る気もしない。
そういえば実家何年も帰ってないな、久しぶりに帰るか。
僕はふとした思い付きで近くの駅まで歩くことにした。
「ただいまー」
返事はない
リビングからはテレビの音と家族団らんを感じられる音がする。
今この場に僕はいない。
僕が存在しない世界に迷い込んでしまったかのようだった。
分かってはいても少し心に来るものがある。
それも今日のことがあった日だ。
リビングに向かう勇気はない。
彼らからしたら僕が入ってくるのはゴキブリが侵入したのと同じ感覚だろう。
見えなければ何の害もないが目に入ると排除する。
彼らにとっては僕はそんな存在なんだ。
こうなったのも僕が生まれてしまったことに原因がある。
僕の両親はどちらも毒親的な存在だった。
母は僕の物心つく頃からギャンブルに明け暮れ、家にはよく男を連れていた
「「あんたなんか生まなきゃよかった!!!」」そう言われ何度暴力を振るわれ続けられたのだろうか。
父は母と同様に、酒・ギャンブル・女が大好物のクソ親父で母と一緒になって僕をサンドバック代わりにしていた。
そんな父と母だが両親仲は意外にもよく僕を置いては二人でショッピングや外食にも行く。
周りからの評判は仲睦まじい家族だとよく言われていた。
実際は家族仲ではなく両親の仲がいいだけだが。
階段を上がって自身の部屋に入ると意外にも部屋は思ったよりも当時のまま残っており変に物が全て捨てられていたり、散乱していたりということは無かった。
親からのDVによる壊れた家具、自身のストレスの蓄積からくる破られた壁紙、そんな景色が今広がっていた。
見知った自分の部屋、知っているものばかり。
それなのに違和感。
知らないもの。覚えていないのか。
散乱した机の上に置かれている一つのノート
なんてことないノートなのに激しく体が動悸する。
好奇心と恐怖心が同時にこみあげてくる。
僕はそんな自分の状態を何とか押さえつけノートに手をかけ1ページ1ページめくっていった。。。。。
はぁ....いったいどうしたもんかなぁ」
一人暗い職場の中時計は夜の10時に差し掛かっている。
そんな中異質に光るパソコンと私はにらめっこしている。
如月 翔太 教育.exe
水原 弥生 教育.exe
私は今どうしても解決しなければいけない問題に直面している。
如月君の教育方法
水原さんのチームワーク力の向上
思えば私はこの如月君と水原さんが入社してからの一年間早くから気づけていたこの問題を未だに解決することが出来ずにずるずると来てしまっていた。
「はぁ.........」
思わずまたでかい溜息が漏れる。
「如月くんもやればできる子だと思うんだけどなぁ...私の教え方が悪いのかなぁ。」
「水原さんも悪い子じゃないのにどうしてあんなに棘のある言い方しちゃうんだろう。」
如月翔太君。彼の第一印象なんで眼帯してるんだろうだった。いまだに理由は聞けていないが何か話したくないこともあるかも知れないのでこれからも聞くつもりはない。
入社時からミスは多かったが新人なのでしょうがないとあまり気にはしていなかったが半年たっても同じミスを毎回繰り返してしまっていたので何度か話し合いの機会を設けたが話をあまり真剣には聞いてくれず
今もなおミスは多くなってしまっていた。
そんな如月君でもいいところはたくさんあり何か人に言われたとしても反抗することなくぐっと我慢したり、
人が言われて嫌なことは言ったりしない。
そんな優しいところがある。
出来ればそこを長所にしてミスもなくしつつ自信を持って仕事に取り組んでくれたらなぁ。。
こうした如月君の良いところがある一方水原さんにはまたベつの問題があった。
水原弥生さん、如月君とは同期で如月君がミスが多い子だとすれば水原さんはその逆で完璧でミスをしたところを私は一度も見たことがない。
とても優秀で入社して半年後には私が営業成績抜かれる始末...
本当に非の打ちどころのない子なのだけど物言いがちょっと厳しいんだよねぇ、なんかオブラートに包めないっていうか
こうした性格のせいで周りからは怖がられ社内では少し浮いてしまっていた。
「まだ帰ってなかったのか?神崎」
「田所さん...!?どうしてここに?」
「本社からの応援でちょっとな。明日からの予定だったんだがちょっと仕事しようと思ってた。」
「お疲れ気味だな、大丈夫か?」
「はは..ちょっと大丈夫じゃないかもです...」
私はつい田所さんの前で弱音になってしまう
田所さんとの出会いは忘れもしない私が営業部で初めて配属になった時、私のその時の課長が田所さんだった。
あの時田所さんはまだ29歳で最年少で課長職になったすごい人
背も高くて頼りがいがある優しいお兄さん的存在だったけど今は今でかっこいい老け方してる気がする、、、
今は本社で営業推進部にいるらしい
やっぱり私まだダメダメだなぁ。
ほんとなら管理職として一人で解決しなきゃいけない問題なのに何も解決できてない、、
また田所さんに頼っちゃてるなぁ...情けないなぁ
感情が込み上げてくる。
それと同時に目から大粒の涙が溢れてしまった
「おい、、神崎大丈夫か?」
そう言って田所さんは私の頭に手を置いた。
あったなぁこんなこと
私が入社して半年ほどたった時だっただろうか
私は同期の中で一番成績がよく与えられたノルマも大きく毎月上回っていた。
それを周りや田所さんは大きくほめてくれた
しかしそれをよく思わない同期の子たちもいた。
私は基本営業に行く際、相手の趣味や好みを徹底的にリサーチして、もちろん提案資料もしっかりと入念に準備してから営業に望んでいた。
しかし私はある一定の同期の子から枕営業をしているだったり、男に色仕掛けを使って得意先をもらっているなどあらぬ噂を流されてしまっていた。
私はそれに耐えられなかった。
なぜこんなにも頑張ってるのに
何も悪いことはしてないのに
一人で帰り道泣きながら歩いた日もあった
会社のトイレで泣いた日もあった
営業車の中で泣いた日も
本当につらかった
死んでしまいたいと何度思っただろう
でも負けたくなかったんだよね
あんな奴らに、ここで自分が辞めたり死んだらあいつらの思うつぼだって
だから私はみんなが帰った後も一人残ってひたすらに頑張った
そんな時田所さんも会社に残っていた。
「神崎まだ残ってたのか、ちょうどよかったお前に話があるんだ」
田所さんはそういうと手に持っていた缶コーヒーを私に向かって投げてきた
思わずびっくりしたが何とか一発でキャッチする。
「おっと、ナイスキャッチ」
「あ、ありがとうございます」
私は少し驚きながらも感謝する。
話って何だろう
「なぁ神崎、お前三浦達に虐められてるだろ?」
開口一番出た言葉に私は思わずドキッとする。
「どうして..」
「どうして知ってるかって?まぁ俺も気づいたのは最近でなもっと早く気づいてあげるべきだったなと思ってる。
噂でお前が枕営業してるって話が耳に入ってきてな。正直俺はお前が今みたいに努力してるのを知ってるからそんなわけはないと思ったんだ。」
「でだ、噂ってのは当然火種があるだろ?聞き取り調査したら案外すぐ出るもんだよなぁ、女の友情ってこえーなってつくづく思ったよ」
田所さんは少しおちゃらけたテンションで話す。
でも今の私にはこのくらいのテンションがちょうどよかった。
「私ってうざい人間なんですかね..」
思わず弱気な声でそう問いかけてしまう。
すると田所さんは先ほどまでとは大きく変わって真剣な面持ちに変わった。
「神崎、俺は結果が全てだと思ってる。あくまで持論だがな、才能があれば当然結果はついてくる。
営業で言えばコミュニケーション能力,頭の回転、人に好かれる才能とかな、正直神崎はどれも圧倒的に優れてるわけじゃない
でも神崎は努力できる才能を持ってると思うんだよ。世間で才能は天才、努力は秀才なんて言われるが
俺からしてみりゃあどっちも天才だ。だから神崎、凡人なんて気にすんな、お前が凡人を気にするのはもうちょい先の話だからな。」
何分たっただろうか
「取り乱しちゃってごめんなさい。」
「急に泣き出すからびっくりしたぞ、なんかつらいことでもあったのか?」
田所さんは心配そうな顔で尋ねてくる
田所さんは覚えているだろうか
あの時私に言った言葉
あの時の言葉で今の私はここにいる。
でも...
「今新人2人を教育してる..というかしてたんですがどうもうまくいかなくて..」
私は2人の情報をまとめたファイルを開く。
「どれどれ」
田所さんは私の隣から覗き込むようにしてパソコンに視線をやる
5分ほどたっただろうか。
田所さんは神妙な面持ちでたった一言つぶやいた。
「これは訳アリだな」
正直意味はよく分からなかったけどなんでか意味は聞けなかった。
暗い部屋の中ブルーライトの光に照らされて沈黙する空間異様な空気
「じゃあ俺は帰るとするかな。」
そういうと田所さんはドアの方へと向かって歩く。
暗闇を切り裂く廊下の明かり
田所さんがオフィスから出ようとしたときふと田所さんの足が止まる。
「言い忘れてた、女の方、あんま深入りしすぎんなよ」
田所さんがそう言い残すとドアがゆっくりと音を立てて閉まりまた
一人だけの空間になった。
女の方って水原さん?
水原さんに深追いするなって...?
最後の言葉の意味と訳アリという言葉
謎が2つほどできてしまったが考えても答えは出てこない。
そんな中ふと時計の方に目をやると時計は12時を過ぎようとしていた。
「って!もう終電やばいじゃん!」
私は急いでパソコンをしまいオフィスの鍵を持って最寄りの駅まで急いで駆けていった。
体が重い...
体が揺れているのは電車による自転のせいなのだろうか。はたまた僕のメンタルが起因しているのだろうか。
周りを見渡すと僕と同じように会社という名の懲役60年の刑務所に収監された囚人たちの姿がちらほらと見れる。
椅子に座り睡眠をとることで疲れをとるもの。自己啓発本を読み自身の成長を促進するもの。まだ新入社員なのだろうか、希望に満ち溢れた目をして
入社式案内の資料を読むもの。
この護送車の中には多種多様な人間がいた。
今の僕はそのどれらでもない。
今日もまた一駅、一駅と刑務作業が近づいてくる。
自然と涙も出てきそうになる。
今日も刑務官が僕を待っている?
ぴんぽーんぴんぽーん
僕は重い足取りを上げながら自身の意思?で今日も改札を通った。
昨日と同じ会社のデスク
昨日と同じ風景
何も変わらない風景
このままここはずっと変わらないのだろうか
100年200年後も変わらないのだろうか
そんなはずはないがそんな気もする
僕は今ここで変わらなければいけないのかもしれない
出来損ないでもいい
50を目指す100と0どちらも50の差が存在する
どちらが50になったってかまわない
僕は今どちら側なのだろうか
前々までは100側だったと思っていた
しかし僕は0側なのかもしれない
僕が0だと思っていた人は100なのかもしれない
僕はいったいどうしてしまったのだろうか
僕はいったい何者になりたいのだろうか
何者になりたかったのだろうか
思い出せそうで思い出せない
昨日のノートには描いてなかった
書けなかったのか書きたくなかったのかは分からない
でも僕は知らなければならない
止まらない好奇心
今日も僕は働く
会社に勤める囚人として...
「えー今回のミスの対策として...って聞いてるの?如月君、君のためにやってるんだよ」
「あ、はいすみません。」
僕は今神崎と対面して今回自分がしたミスを問い詰められている
「今はほんとに怒ってるわけじゃないから、一緒にミスなくしていくための話し合いだからね。」
そういう神崎だったが実際に目は笑っていない、
本人は笑っているつもりなのだろう
どうせ神崎は腹の奥でまたいつものように僕を馬鹿にしているのだろう
だがそんな些細なことはもうどうでもいい
「でね今回のミスなんだけど、このミスした仕事に関しては水原さんが一番得意な分野だからあとで水原さんに色々教えてもらってね」
彼女は平気でそんなことを言うが冗談じゃない。
わざと何だろう
昨日の話があった後の今日だ
今回のミスを口実に僕と水原との関係を修復させるつもりなんだろう
どうしてそこまで僕と水原との仲を気にするのだろうか
「わざとですか?昨日の今日です、どうせ今回のミスを口実に僕と水原が仲良くなったらいいなとか思ってるんですよね」
思わず気になってぼくは神崎に問いかける。
「まあそう考えちゃうよね、実際にその気持ちがないわけじゃないよ。
如月君はちょっと勘違いしてるかもだけど水原さんはそんな如月君を貶めるようなことは言ってないししてないし。」
「ちょっと場所うつそっか。」
神崎はそういうとおもむろに立ち上がり社員の休憩スペースがある方へと歩き出す
僕はそんな返事の有無も聞かずに歩いていく神崎に半ば呆れながら彼女の後に付いて言った
休憩スペース
「よし、ここなら言いたいことが言えるね、なんか飲む?奢るよ?」
「じゃあコーヒーで。」
「ブラック?微糖?」
「ブラックで。」
「ん。」
神崎は自身の飲む小豆ジュースとコーヒーを自販機で買うと僕にコーヒーを放り投げ、小豆ジュースに手を付けた。
(ていうか小豆ジュースってなんだよ...普通おしるこだろ)
「んんっ,,,はぁ...おいしい~...小豆ジュースってホント美味しいんだよね、如月君も飲む?」
「いいです、それより早く本題に入ってください」
「あんまり生き急いでするような話じゃないんだけどな、、」
神崎はゆっくりと揺れながら俯いている。
そして数秒ほど沈黙が流れたのちようやく神崎は口を開いた。
「さっきの話なんだけどね、ほんとに水原さんと全く分かり合う気はない?」
「ないです。」
僕はそう即答すると神崎はとても大きい溜息をついた。
「そっか...ちょっと大事な話するから聞いてね。」
神崎はいつにもまして真剣な目になる。
神崎にはここ1年入社してからほぼ毎日のように怒られていた、
しかし神崎は怒鳴るということや大きく感情的になるところはあまり見たことがなかった。
神崎は今本当に真剣な目をしていた怒られる時よりも怖く目背筋が思わずこおりそうになるほどに。
「如月君が今まででとった契約の数覚えてる?」
「別に覚えてないですし契約が取れていないのは先輩の教え方が悪いのが原因じゃないで」
「そうやってすぐに人のせいにしないで」
神崎はそういって僕の話を遮る。
人のせいにするなってなんだ。
僕が契約が取れないのは少しは僕にも原因があるのかもしれない、でも神崎の教え方がもっと良ければ自分はもっと契約が取れているのかも知れないし第一水原なんかと比べられても困る。
反論はいくらでもある、言い返したい、いつもの僕ならきっと今ここで反論していたと思う。
けれど今日の神崎は違った。
いつもの神崎にはない威圧感がそこにはあった。
「如月君、契約の数の話だけど如月君はいまだ0件だよ、ちなみに今まで私が聞いた話だと入社して1年たっても0件の子は今までいなかったらしいんだよね。」
「さっき如月君が私に言った私の教え方が悪いから契約が取れないって話確かに私にも原因があると思う、でも少なくとも如月君にも原因は多少なりともあるはずだよ。」
「それでね私はどうしたら如月君が成長できるか、私の教え方の何が悪いのか、どうしたら如月君が自分を客観視して見れるようになってくれるか。」
「私は必死になって1年間頑張って考えた、今もまだ考えてる。」
「でも時間は無限にあるわけじゃない、如月君もわかるよね?」
「いったい何が言いたいんですか,,」
妙な胸騒ぎがする。
原因は分からない、
そんな僕の心境そっちのけで神崎は話を続ける。
「会社って学校じゃないから今みたいにずっと教えられ続けて一生学ぶ側で居れるわけじゃないからね、如月君もお給料もらえるでしょ?」
「でね今の如月君のままじゃ会社側もこれ以上は雇うのは難しいって言う話が出てるの。」
「まぁ言っちゃえば解雇って話なんだけどね、だけど私は1年以上如月君の面倒見てるし如月君のいいところも悪いところも最近ようやく知れてきたところなのにさ...」
「そんな時に解雇って話が出るもんだからねえ,まぁ驚いたけど確かに今の如月君じゃしょうがないかなとも思えちゃったんだよねぇ。」
「でもさ、如月君だって努力してきたと思うし、まだたった1年だよ!それなのにさぁ..」
「それでここからがほんとに大事な話なんだけど、明日如月君大事な商談があるでしょ?その契約を取ってこれればその話は少し待ってもらえるってことにしてもらえたの。」
確かに僕には明日三菱との大型の新規契約が取れるかもしれない大事な商談があった。
その商談自体は元々僕が取ってきたものではなく神崎からの紹介で正確には顧客を譲ってもらったという形になる。
初めての大型の顧客で且つこれを決めてこなければ僕はクビになる。
そんなハイリスクハイリターンな賭けを今僕はしようとしている。
だけど今までいくつもの商談をしてきたが全て契約には至らず失敗してきていた。
今まで僕は何度もミスしてきた。今回ばかりはそんなミスは許されない。
動悸と汗が止まらない...
「そうだよね...急にそんなこと言われても動揺しちゃうよね,,,一旦深呼吸して~。」
数分後
「大丈夫?一旦落ち着いた?」
「はい、何とか。」
口ではそう言ってみるが僕の心は明らかに穏やかではない。
沈黙が続く。
「まぁそういう話だから。如月君も当然思うところはあると思うけど今は明日に向けて提案資料の見直しとか、
ロープレとかをしっかり行って契約取れるように頑張るしかないからね。私はもう仕事に戻るけど、如月君も落ち着いたら仕事に戻ってね。」
神崎はそう言ってジュースを飲み干すと自身の仕事場へと戻っていった。
一人残された休憩室。
本来なら早く戻って明日の為に仕事をするのが当然だろう。
そんなのは分かってる。
分かってはいるんだ。
今まで僕はできる側の人間だと思っていた。
それは今でも変わらない。変わっていないはずだ。
でもどうしてだろうか、今の僕にはその確証がない。
今日の僕はおかしい。
「帰るか、」
僕は重い足取りを上げて、休憩室を後にした。
「ねぇ如月君、昨日あの話の後何してたの?」
開口一番神崎は何とも言えない表情でこちらに問いかけてくる。
呆れているのか、怒っているのか、はたまたどちらでもないのか、
「....」
僕は何も答えられなかった。
答えがなかった。
自分でも分からない初めての感情だったから。
初めて...?
初めてのはずなのに何か引っかかる。
なぜだろうか?
「答えたくないならそれでもいいよ。」
彼女の眼は恐ろしい程鋭い。
背筋がゾッとした。
そんな僕に構わず彼女は話を続ける。
「話は聞いた。散々だったてね。まともに自社の商品説明もできない。資料も誤字脱字だらけ。先方カンカンだったらしいよ。」
「提案資料も自分で一人で完結。誰にも頼らずに自分ならできると思い込んだのかは知らないけど誰にも何も言わずに会社からいなくなって挙句の果てには何の報告もせず勝手に先方に行って
先方との関係も悪化させる。」
「正直ここまでだと思わなかったよ。」
「もう庇いきれないし庇いたいという気持ちもない。今後の諸々の処分は人事部や部長から話があると思う。」
「だから今日は帰って連絡があるまで自宅待機してて。」
彼女は本当に神崎なのだろうか。
僕が知ってる神崎とは違う。
誰だ...
「最後に言っとくけど他責思考、プライド、自己肯定感、要るものと要らないもの取捨選択していかないと君は何も成長しないよ。」
誰だ知らない
どうして僕は今こいつに説教されているのだろう。
僕の方が強いのに
そうか
分からせればいいんだ
笑いが止まらない。
第一僕に楯突くやつの方が馬鹿なんだ。
それを分からせてあげきゃ。
「何笑ってるの?いい加減にして!」
うるさい
「kyyfyfyfyfftdtdtydtdtづぢゅdyjdydyjddghfjsrsjsyksysktstkyskyststystskysskstysyksksksyskskytstststsytsskystykstyksystsykstysykskyskstystystyststystsytsyksystkssytsysksysyssyksykskstsytsdkytsksyktskstys6kts6ky」
人気のない裏路地
「如月君!やめて!こんなことしたらだめだよ!」
神崎は必死の声で抵抗する。
夜のうす暗い路地
ここには人どころか猫、ネズミすらも見当たらない。
僕は必死に抵抗する神崎に馬乗りになり両手を強く抑える。
「抵抗しないでくださいよ神崎さん。抵抗したって誰も来ないし僕に力で勝てるわけないでしょ?」
「神崎さんが言ったんですよ。僕のことを弱者だって、どうです僕は弱いですか?たかが会社の中の権力に穿って自分が強くなったと勘違いする。」
「私は権力なんかに縋ってもないしあの場で言ったあの発言はこういう意味じゃない。」
神崎は先ほどまでの怯えた表情と一転して凛とした顔で答える。
しかし抑えている手は震えていた。
「こういう意味じゃないってどういうことだよ!現にお前は今僕に何もできないじゃないか!」
僕は声を荒げる。今までの鬱憤をここで全て出し切るほどに。
何もできない人間が僕に指図してきたのがおかしいんだ
そんな時神崎がふと笑う。
「何がおかしいんだよ」
「如月君って視野が狭すぎるよ。自分のことばかりじゃなくて周りをもっと見ようよ。」
ああもうだめだ
もうこの女は殺した方がいい。
ここまで僕をイラつかせた女は久しぶりだ。
僕はあらかじめ用意していたナイフを取り出す。
「ねぇ如月君まさか私を殺す気?」
「当たり前だろ。もう邪魔だ。死んでくれ。」
「もういい加減にして!私が何をしたって言うの!君のことを成長させようとして色々と試行錯誤して、君が何かやらかした時も全て私が庇って、それなのにこれはどういう仕打ち!?」
うるさいなこの女
僕は彼女の頭めがけてナイフを振り下ろす。
「てってれてー」
僕の動きが止まる。
電話の着信音だろう。
神崎のポケットからなっていた。
僕は神崎のポケットをまさぐり携帯を取り出す。
{りゅうくん}
彼氏だろうか。
「やめて!触らないで!」
神崎が先ほどよりも強く抵抗する。
「彼氏ですか?」
「そんなこと、、あなたには関係ない!」
彼女は動揺と激高そんな二つが入りまじじった表情で僕をにらみつける。
僕には強い好奇心が湧いた。
僕は今まで人は殺したことはないが動物は殺してきた。
最初の方は楽しかったがだんだんと飽きてきた。
今その理由が分かった気がした。
僕は神崎の口を強く押さえつけ通話ボタンを押した。
「おーい真昼ーいつ帰ってくるのー?」
通話口から男の声が聞こえる。
「おーい真昼ってば」
男は返答がないことに少し不安がる様子で問いかける。
「もう帰ってこないですよ。」
「誰だ!お前真昼は!?真昼はどこだよ!?」
僕は神崎を通話口まで引き寄せる。
もちろん口は覆ったまま。
「んんんんっつ」
「真昼!?真昼なのか!?」
声にならない声で話す神崎にひどく焦った焦った様子の男
「もう帰ってこないので最後に会話にすらならない通話でもしといてください。」
僕はそう言うと神崎の太ももにナイフを勢いよく突き刺した。
「んんんんんっつ!!!!!!」
神崎はひどくゆがんだ表情で叫んだ。
太ももから激しく流れる血
苦痛に歪んだ表情僕はひどく激しく興奮していた。
男が何か叫んでいるが僕の今のプレイには関係ない
僕はそのまま神崎の手のひらに対しナイフを突き刺す。
「んんんんんっつ!!!!!!」
強く抵抗していた神崎の手からみるみる力が失われていくのがよく分かった。
神崎の体温が少しづつ低下していくと同時に僕の陰部は激しく熱を帯びていく。
そして僕は近くにあった石を神崎の歯に叩きつけた。
僕の陰部を抑えるためにセックスはしなきゃいけないが口をふさいだままだとやりづらい。
多少顔は醜くなるが仕方がないことだった。
こうした行動により彼女の体温はみるみるうちに低下していく。持ってあと数分というところだろう。
僕は急いで彼女の陰部にモノをいれる。
彼女のナカは締め付けこそはないがいれている感触はあったので恐らくこれがセックスだと思う。
僕が激しく腰を揺らすたびに彼女の出血はひどくなる。
何か言っているが何を言ってるのか分からない。
激しく通話口から鳴り響く怒号
声にならない声を上げている女
血まみれになりながらその女に対して腰を振り続ける男。
激しく静かな異様な空間がそこにはあった。
道中人を避けながら家に帰るのは大変だった。
着替えの服もないし見つかったら大惨事だ。
そうはいっても神崎の死体が見つかるのも時間の問題だろう。
ばっちり神崎の死体には僕の指紋や精液、僕に関連するものがたくさん残っている。
それにしてもあれは最高だった。
ストレスと性欲をあんなにきれいに解消できるとは思わなかった。
思い出してきただけで陰部が増長してくる。
「次は水原だな...」
早いうちに手を打とうどうせ捕まるなら一人でも多くやって殺した方がいいんだから。
私はちゃんと如月君にうまく伝えられただろうか
私の話で如月君は自分の問題点を自ら見つめなおして人に頼ることができるだろうか
周りからはあいつはできないからほおっておけだの、如月君に指導するのは時間の無駄だの色々言われるけど、、
私にはやっぱり彼を見捨てることはできない。
自分が田所さんに助けられたように
私も尊敬される上司になれるように
だからこそ今回の契約を彼が決めることが出来るために精一杯サポートはするつもりだ
何より私がどうにか水原さんに頼んでもらった案件だしね、、
如月君は水原さんの事を敵対視してるみたいだけど今回のことと言い水原さんってむしろ如月君にだけ優しいと思うんだけどな。
実際そんなことを如月君には伝えてはみたけどあまり伝わってはくれなかった。
とにかく今回のこの案件如月君のためにも、水原さんのためにも、私のためにも絶対に成功させなくちゃ
そのためにまずはっと、
私は水原さんからもらった三菱との商談途中の資料を手に取る
明日の如月君のフォローを少しでもするために、
そんな気持ちで私は簡単な提案資料の作成に取り掛かるために重い腰を上げることにした
朝
目覚めは最悪だった。
昨日の夜僕は神崎の死体を埋めるため山まで車を走らせ死体を山の土の中、絶対に見つからないだろうという深さに彼女の死体を埋めた。
普段デスクワークの僕にとっては久しぶりの運動であり非常に苦痛だった。
そのせいで今僕は全身筋肉痛だ。
朝6時30分あと少しで家を出ないと遅刻してしまう。
「だから今日は帰って連絡があるまで自宅待機してて。」
彼女の昨日の言葉が脳裏に再生される
実際連絡はまだ来ていないので本来なら自宅待機でもいいのだろう。
しかし僕は昨日あいつを殺してしまったため神崎は今日会社には来ない。
そうしたら必ず会社は何かしら変だと思い動くだろう。
何よりも神崎の彼氏の存在だ。
僕は昨日自分の一時的な快楽の為に多くの証拠の残してしまった。
神崎に何かあったことは遅かれ早かれ今日わかるだろう。
そんな中僕が会社に出勤いないと必ず怪しまれてしまう。
だから僕にはまたあの場所に行くしかないんだ。
何よりも警察に死体が見つかれば僕が捕まるのも時間の問題だろう。
何より僕の目的は神崎だけじゃない。
もう僕に怖いものなんてないんだ。
僕は水原を殺す。
水原だけじゃないどうせ死刑になるなら気に入らない奴は全員殺す。
妄想が現実になるのもそう遠くないはずだ。
あの1冊のノート
あれで全てが変わった。
生きてることに価値はない
正確には今の法律に縛られてる人生には価値はない
僕がいま生を実感するには法を出るしかないのだから
生を奪って生を実感する
生産性の話をするのであればそこに意味はない
それでも僕は、、、
そんなことを考えていると自分の足がテレビのリモコンに当たりテレビがついてしまった。
テレビに映っていたのは朝の情報番組だった
普段通りなら今は天気予報なのでこの後占いがあり、ゲストとして出ていた女優が最後にエンディングで番宣をするという流れだ。
少し見てるうちに天気予報、占いとコーナーが終わっていく。
そしてここでゲストによる番宣が行われる。
「「はーい!今回私が主演を務めます!真冬の朝の現実は12月21日に公開となっており、この映画の見どころは、、、、、、」」
画面には真ピンクのツインテールでフリフリのアイドル衣装を身にまとった女が笑顔で番宣をしていた。
普段なら何とも思わないアイドルがただただ番宣をするシーン
それでも今日の僕は違った。
そもそも前々からこのアイドルは見たことがある
それでも今までの感情と今日の感情では大きな温度差があるのが自分でもわかった。
「与那国セイラ、、、」
僕はぽつりとそうつぶやき刑務所への歩みを進めた。
会社に着くと僕は普段通り自分の席に着いた
何やら周りはざわざわとしているが僕はそんなことは気にしにない。
時間は始業1時間前なんだかんだ初めてじゃないだろうか
気分がいい
なぜならいつもいるはずの害悪が1人消えたのだから
だとしても今の僕に仕事はない
僕は失敗したから
僕はごちゃごちゃした机を片付ける
これはいつの資料だろうか
身に覚えのない資料が多くある
僕が作ったにしてはしっかりと提案内容が分かりやすく見やすい
一昨日の商談の資料だろう
身に覚えはないがもう今の僕には必要ない
それにしてもどうして僕は今ここにいるのだろうか
必要とされているから会社にいられるのだろうか
それじゃあ今の僕は...
僕は紙を捨てる
また一枚
また一枚と
今までのデータ
ファイル
ゴミ箱へ
現実にもパソコンにも
もう何も残っていない
今までの僕には
今の僕は何なんだろう
ステルステル
始業のチャイムが鳴った
朝礼が始まった
そこには本来いるはずの神崎はいない
僕が殺したから
死体も隠したしまだ見つかるには時間がかかるだろう
始業になっても現れない神崎に社内は異様な空気となっていた
そんな中一人の男社員が席を立った
誰だっけ
誰かは知らない名前には田所と書いてあった
田所はあたりをさっと見回すと普段朝礼する場所に行く
「えーと、誰か神崎どこにいるか知ってる奴いないかー?」
誰もそれには答えようとしない
「えーと今日僕神崎さんに同行してもらう予定だったんですけどまだ見てないんです。なんかあったんですかね?」
一人の男性社員が心配そうな声で田所に尋ねる。
「俺にも何の連絡もないからなぁ」
田所は数秒考えたのち自分のスマホを取り出し電話を掛ける
しかし無情にも電話は応答することなく留守番電話に切り替わるだけだった。
「出ないか..」
「とりあえず今日の朝礼は無し。各自自分の仕事に戻るように、そして城田、今日の同行は俺がついていく。ついでに神崎の家に安否確認しに行くから
そのつもりでな。じゃあ各自今日もよろしくお願いします。」
田所はそう言って自分のデスクに戻り僕にとって初めての神崎のいない朝礼が終わった
かくしてデスクに戻った僕だがやることは無い
キレイさっぱり何もないデスクにポツンと置かれたノートパソコン
さてどうしようか
考えるふりをしてぼーっとする
「昨日神崎さんから来なくていいと言われてませんでした?」
声がしたので振り返るとそこには水原がいた。
「...」
「いつもは言い返してくるのに今日は何も言い返してこないんですね。」
いちいち間の触るクソ女だ
こいつも早く神崎と同じ風にしてやる
そう考えたら今こいつにイライラしてたら僕の負けみたいなものだ
「暇ならこの資料ファイルにまとめておいてもらっていいです?このくらいならあなたにもできるでしょう?」
水原はそう言ってファイルの束を僕のデスクに大きな音を立てておく
「おい!なんで僕がお前の仕事をしなきゃいけないんだよ」
どうして僕がこんなクソの手伝いをしなきゃいけないんだ、冗談じゃない
「なんでってあなたがクビにならないために私の案件を持っていたことを忘れてるんですか?」
水原はクスっと笑う
うるさいうるさい
「まぁそれでも失敗したみたいですけど神崎さんが来なかったのもあなたの顔をもう見たくないからじゃないですか?」
彼女はつづけさまで僕を馬鹿にしたような目で笑う
うるさいうるさいうるさい
「うるさいんだよ!!!!」
僕は叫びながらデスクを叩きつける。
静まり返る社内
驚いたような目で僕を見てくる水原
今すぐにこの場から立ち去りたいが足が動かない
「大きな声出しても別に無能が有能になるわけじゃありませんよ、まぁとにかくこれ、やっといてくださいね。」
水原はそう言ってそそくさとバッグを手に取り外回りをしに出ていった。
嫌になるほど周りの目が突き刺さる
僕はほとぼりが冷めるまで顔をうつ伏せにしてただ静かに震えていた
夜誰もいない社内
水原を犯して殺す
ただそれだけがしたい
水原はいったい何なんだろうか
神崎とは違う
コミュニケーション能力は高くなく感情というものを見せてこない
どちらかというと僕側の人間だ
あいつにとって死は怖いのか?
神崎はうざかったから殺した
でも水原にはそれ以上に感情が見たい。
あいつが仕事以外に何かをしているところは僕は見たことがない。
彼女から仕事を奪うには..
僕は彼女のデスクに向かって歩く
水原のデスクは整理整頓されておりきれいに資料も分けられていた
僕はさっそく彼女のパソコンを開きデータを色々と削除する。
5分ほどで全て消し終えて彼女のデスクトップは何なくなった
これで明日あいつは..
そんなことを思っているとデスクの引き出しに鍵が掛かっていることに気づく
本来は引き出しに鍵などはついておらず水原自身でつけたものだろう
ここにもっと重要な仕事の資料が入ってるのだろう。
僕はそう踏んで鍵を壊すことにした
金槌よって引き出しの鍵は粉々に壊れる。
僕はどんなものが入っているのかとドキドキしながら引き出しを開ける。
そこには水原の見たことも笑顔と小さな男の子の写真と一枚の手紙があった。
「「やよいおねえちゃんへ
いつもぼくのためにおしごとがんばってくれてありがとう!!
ぼくがおおきくなったらぜったいにやよいおねえちゃんにしあわせになってもらえるためにがんばるね!
だいすきだよ!
こうじより」」
「あいつ弟居たのか..」
感情のない人間なんてものは存在しないんだな
僕はそう改めて認識した後、写真と手紙を持って会社を後にした。
僕が会社に着くが否や、普段なら無表情のはずの水原が僕に向かって鬼のような形相で迫ってきた。
「あなたですね、私のデスクの引き出しを破壊した挙句、私のパソコン内のデータまで消したのは!」
「僕じゃないよ、なんか証拠でもあるの?」
僕はあくまで白を切る
「ほんとにあなたは頭がお花畑なんですね、監視カメラ見れば一発でばれますよ。どうせ誰もいない夜の間に私への腹いせでやったんでしょう?。
まぁこの際そんなことはいいです。」
水原はそういうと少し深呼吸する。
「私の引き出しにあった写真と手紙今日中に返してください。じゃないと絶対にあなたを殺します、あともう総務には報告済みですから。」
彼女は僕にそう耳打ちすると自身のデスクへとそそくさと戻っていった。
一人残された僕は思わずあっけに取られてしまう。水原の感情というものを僕は初めて見たようなそんな気がした。
まるであの写真と同じ人間とは思えない
彼女の中での人生におけるキーは弟なのだろうか
僕は水原自体に興味はない
そんななか僕の中で神崎が一瞬よぎった
神崎と水原どちらも仕事熱心で優秀な人材ではあるが、仕事のやり方や契約までの持って行き方
性格も全て異なっている
水原のことを知りたい
それはなぜだか分からない
僕の中での好奇心が暴れだす
まだ始業したばかり
水原のパソコンやデスク周りを一通り漁ったとは思うが見つかったのはあの写真と手紙だけだった
僕がいま彼女のことを知るためには彼女の退勤後、尾行をするしかない
それまでの間僕は今やるべきことをやろうと思う
タイムカードを切ったのち僕は会社の前で隠れて水原が出てくるのを待つ。
僕は今何をしてるのだろうか
外はもうすっかりと暗くなり定時からもう2時間ほど過ぎていた
なかなか出てこない水原への謎の怒りが込み上げる
こうしている間にも刻々と時間だけがただひたすらに過ぎていった
少し肌寒い季節の中僕の体は意思とは裏腹に震えている
分かっていたんだこうなることは
でも僕はやらざるを得なかった
そうでもしないと僕は、、、、
ガチャリとドアが開く
そこから出てきたのは怒りと疲れが混ざったようなそんな表情をしていた水原だった
少し重そうな足取りで最寄りの駅へと向かう水原
僕はそんな水原にばれないように少しずつ、少しずつ、距離を置きながらも水原を尾行していった、、
最寄りの駅から三駅ほど行った先で降りた水原
駅から少し歩いて10分ほどたった先にあった少し古びたアパートの中の階段を水原は上りドアのカギを開けると自身の家の中に入っていった。
年頃の女の子の家としてはあまりにもミスマッチな自宅
自分の何とも言えない好奇心で尾行をしたわけだが少し気持ち悪さが残る
正直自分でも何がしたいのかは分からない
この今の僕の行動が僕に何のメリットがあるのか
ただ犯すだけならこんなことは必要がないはずだ
それでも彼女のことを知りたいと思う気持ち
そんな気持ちの悪い感情だけがただもやもやと残る
古いアパートなので住人の声がちらほらと聞こえる
ドアの隣についてる窓からも水原と男の子が笑顔で食事をしているのが見えた
「どうお姉ちゃんのハンバーグ美味しい?」
「うん!」
「こうじは美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるなぁ、、」
そんなたわいのない会話
あんな表情の水原は会社で見たこともない
もやもやする
変な感情
ただただ水原は美味しそうに食べる弟の表情をお仇やかな表情で見つめていた、、
その後水原は食器を片付け洗い弟をお風呂に入れている間に洗濯物を回した
弟が風呂から出ると早く寝るように言い弟を寝かす
僕の目に映る水原は母親の行動そのものだった
夜はもう遅い
パソコンを立ち上げた水原遠目に見えたモニターには何かの資料が映っている
仕事を家に持ち帰っているのだろう
凄いな...
その点僕は今一体に何をやってるんだろうな
長丁場になりそうなので僕は水原から背を向け僕はアパートを後にする
階段を降り駅へと向かう
神崎と水原どちらも定期的に知らない人格がいる
歩きながら僕はそんなことを思う
何だろうかさっきから僕はずっと変だおかしい
最近の僕は何かがおかしい
この感情を処理するためにはいったいどうしたら、、
明日は土曜日。会社は休み
警察に捕まってしまうのも時間の問題なのでこの休みを僕はどう使おうか
明日水原を犯すべきか?
それだとセイラを殺せるまでに警察に捕まるか?それともセイラを殺すのが先か?でもそのためにはあいつに会わないと、
正直やることが多すぎる
自問自答のループが止まらない
終わらせるためには??
「うーん、それは恋だねぇ」
私にはその答えしか出てこない
てか私心理カウンセラーであって恋愛のスペシャリストとかじゃないんだけどなぁ
てか久々に会ったけどより一層やつれてるなぁ
私は今診察室で目の前に座っている元患者の男の子に恋愛相談をされている
本人は絶対認めないだろうけど、
「絶対違います。僕は彼女が憎いくらいなんです、絶対殺して犯してやる。そして山に神崎と同じように埋めて、、、、、、」
あぁまた始まっちゃた、懐かしいなぁこの感覚
私、白上怜愛がこの子と初めて会ったのは、まだ翔太君が高校生の頃。
私がまだカウンセラーなりたての時に担当した子供だった。
学校の担任に連れられてきて少し人格や妄想癖があってどうにか矯正できないかと、、
正直この子の世界観に付き合ったり、よくわからない言葉を理解するのは大変だったけどね
「違うって言ってもその子のことを考えると今までにない変な感情になるんでしょ?」
「まぁ、なんかもやもやしたような、気持ち悪い、言語化できないような変な感じです。」
「それが恋だって言ってんの」
「だから違いますって」
ほんと変わらないなこの感じ
ちょっとめんどくさい
「で、結局私はこれしか答えが出てこないよ、そんなことより仕事は順調?てか無事働けてるんだ?ちょっと安心だよ」
「まぁ,,,,」
ちょっと言葉が濁る如月君だが私はつづける
「結構私高校生の子受け持つことが多いんだけどね、みんな結構卒業しても会いに来るのに如月君なかなかこないからさぁちょっと心配してたんだ」
「あの、正直僕は僕が分からないんです。白上先生、感情って何ですか?」
「僕の脳は何がおかしいんですか?」
「なんで人を殺したら異端扱いされるんですか?」
「豚や牛は殺すのに?」
「犯罪だからダメなんですか?」
「強いものが弱いものを淘汰して何がダメなんですか?」
「こうして生物は繫栄してきたんじゃないんですか?」
「秩序や法律と倫理観は似て非なるものじゃないですか?」
「僕がもし人を殺してもそれは犯罪だから処罰されるのは受け入れます。」
「でもそれが人として間違ったことをしているから処罰される。」
「それは僕の中の倫理から逸脱しているんです。でも世間は違う。」
「僕がマイノリティーだ。」
え?急になに?殺す?犯罪?
思わず早口でまくしたてられる文章に思わず口がふさがらない。
「ええっとつまり如月君は世間と自分の認識の違いはどこから生まれてるのかってこと?」
私は自分なりにどうにか如月君の言葉を解釈する。
「まぁ端的に言えば」
「ん-、殺人のとらえ方かな。明確に恨みや金銭目的といった加害者側の都合のいい殺人。自分が殺されるかもしれないので正当防衛で殺してしまった殺人。」
「そのどちらも悪いという人はいると思うけど、悪さの比率で後者の方がよくないと考える人はいないと思うんだよね。まずここから分かるのが殺人を一括りで考えないこと」
「そしてそもそも殺人を禁じてない社会なんてないんだから、許される殺人は戦争だったり死刑とイコールの関係になってることがまず論理としては破綻してるんだよね。
じゃあ、結局全員に共通する道徳や倫理観の原理はないのかって話だと思うんだけどそんなものは今の如月君が表してるように結局ないし、道徳的矛盾は存在してるのが今の現代社会。
だからまぁ如月君の考えを否定する論理もなければ、肯定するものもないんだよ」
正直私は大切な人が殺されたら嫌だからって、小学生みたいなことしかホントは思っていない
端から如月君の意見を聞いたら、この子はいったい何を言ってるんだろうと思うのだろう
私にその考えが全くないわけじゃない
それでも如月君の眼は真剣に見える
彼も彼なりに悩んでいるのだろう
いつもなら言い返してくるはずの如月君がただただ私の眼をじっと見つめ、話をずっと黙って聞いていた
沈黙は数十秒と長かった
「ありがとうございました。またお願いします。」
彼はそういうと椅子から立ち上がりドアから出ていった
そんな如月君の姿は高校生のあの頃を思い出すような嫌な感じだった
?