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御曹司との結婚を蹴って別の御曹司と結婚した私

作者: ryomiryomi

 ホテルオークラ東京で、富田自動車の御曹司との婚約披露パーティ。

「芦沢美琴、悪いが、君との婚約は破棄する!」

 私、芦沢美琴は、富田自動車の御曹司から婚約破棄を言い渡された。

「ごめえん、お姉さま、お姉さまが悪いの、私のことを妬んで、イジメたから。近寄る女にも嫉妬深くて、すっごくイジメてたよね。英雄さんは止めたのに、お姉さま、言うこと聞かなかった」

 富田英雄は日本一の自動車メーカーの御曹司。日本一の中でも、さらに有数のお金持ちの息子だ。

 私の家も半導体メーカーの会社で、富田の御曹司にも負けぬ金持ちだ。だから、会社取引の延長線上で、結婚が進められた。

 でも、私には父が後妻に迎えた血の半分つながらぬ妹がおり、何かとライバル視されてた。裏では何か画策しているみたいだったが、私の婚約者を奪う算段をしていたらしい。

「お姉さま、可哀そう。あんな大会社の御曹司に捨てられて。でも、お姉さまが悪いの。言うこと聞かないから。大会社の息子だもの、お姉さまでは無理よ。お姉さまにイジメられるって、皆言ってる。どうしてそこまで、意地悪になっちゃったの?」 

「君のように性格の悪い女はこりごりだ。今日だって、みずきちゃんのドレスをわざと破いて、泥まみれにしたんだろ、妹が自分より可愛いからって、あんまりだ。僕の目に止まるのを阻止しようたって、そこまでするとはな。そういうネチネチしたところが、嫌いなんだよ、君とはもう終わりだ」

 英雄は義妹の肩を抱き、壇上で私を指さす。

 ああ、こんな男はたくさん。目が曇ったあげく、いろいろ画策した義妹に尽くすなんて。

「ああ、そうですか。それならそれで良いです。こっちからむしろ、願いたいです。婚約解消でお願いします」

「なっ、何様のつもりだ」

「うちのほうが大きな会社なのに、生意気な」

 御曹司の家族や、取引会社からの怒号、招待客からささやかれるひそひそ声に、周囲がざわざわ、会場は揺れた。

「失礼します」

 私は走ってパーティ会場から出た。

「なんという根性の悪さだ。自分が悪いくせに」

「英雄さん、姉さまを責めないで。あれで良かれと思ってやってるだけ。うちはあなたの会社に従順よ?あの人だけ、懲りてないのは」

 義妹と御曹司が何やらぶつくさ言っていたが、私は走った。

 何のこともない。願ったことが起きただけ。これで楽になった。

 義妹に騙されて、勘違いしたことばっかり言うのに付き合うのが、面倒くさかったので、正直言って、せいせいした。

 ホテルの外に出て、清々しい青空に身体を委ねる。

 ううーんっと背を伸ばすことが出来た。思いっきり、何か飛んだ。

「芦沢さん、大丈夫ですか」

 ホテルの近くの大きな公園で休んでいたら、大手鉄道会社の御曹司、丹波吾郎が近づいて来た。

「丹波さん・・・」

 私と同じ大学で、就職した先が同じ。このたびの結婚も義妹のことも相談に乗ってくれて、親切に逃げたらいいとか、怒ったらいいとか言ってくれた。

 この前、夜に飲んだ時は、思わず一線を超えるかと思った。

「結局、あなたの言う通りになった。あの人は頭が固くて、私の言うことを信じないし、あっさり、うまく義妹に乗り換えた。こんな私、バカよね。あんな奴の言いなりになって婚約してたなんて」

「家のつながりがあったからだ。君のせいじゃない」

「そう言ってくれるの、あなただけよ。でも、みっともないわね」

「いや、僕はそれならそれで、そっちのほうが良いんだが・・・」

「えっ・・・?」 

 彼は見たことがないほど、困った顔をして、照れていた。

「いや、義妹ばりにこうならないかと思って、画策したのは僕かもしれない。なんとか、あいつと婚約解消しないかと思って、君にアドバイスしてたのは、そういう下心があったかも。いや、あった。僕こそ、画策した張本人だったかも」

 え・・・じゃあ、親族パーティで、着物ではなく、あの変なスケスケの水色のドレスを来て行けって言ったのも?

 結婚式場で、あいつと行って、わざと怒って、手に入りにくい女と思わせろと、日頃の仲直りのためにやれと言われたから、実際言ったら、激怒してさらに嫌われたのも?

 義妹以上に、私の関知せぬことでトラブルが起こって、おかしかったことは、まだまだある。

「でも、決して、君に損失を与える気はなく、君を傷つける気もなかった」

「どうして、そんなことを?」

「分からないかい?」

 分からないわけではないけど、でも・・・分からないことにしておきたかった。分かったら、もう逃げる先がなくなる。世界でたった一つの心のオアシスは、守っておきたい。

 分からない。なぜ、なのか。

「じゃあ、言うよ」

 彼は私の前に来て、手を取り、私の顔を覗き込んで言った。

「ずっと君のことを思っていた。子供の頃から思っていたのは、あいつだけじゃない。僕はもっと前から、君のことを思っていた。僕と結婚してくれるかい?」

 私はもう、分かった。分かっていたから、一瞬で分かった。

 その時の私は、オアシスを喪失したわけでない。むしろ真逆。ずっと求めていたオアシスを手にしたのだ。

 世界で唯一の広い、全身が潤い、幸福を感じる、瑞々しい水辺を。

「もう待てない。今から、もう、答えてくれる?」

「私・・・私は・・・」

 入り組んだ関係だったけど、どうやら義妹も、ここまでは手を出さない。

 これからは、私は何にも縛られず、好きな手を取って良い、よね?

「はい」

 私はそして、別の御曹司と結婚した。



(終わり)

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