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 三人は若者達を追いかけるようにして馬を走らせたがすでに見失ってしまった。島の北から南に行くとはいえ中央を突っ切るわけにはいかない。ナイブズ一家がいるからだ。無駄な接触は避けたい。

 三人は結局、中央を迂回して東にある例の海岸近くの無人街を通ることにした。ここから海も見える。今日もいい天気だ。白い砂浜に青い海。波の音が耳に心地いい。

 砂浜で馬が二頭のんびりと歩いていて、マックスは笑顔を見せた。

「あれ俺達の野営地の馬かもしれねえな。ここから近いし。今日はこっちに来る連中はいないはずだ。馬を連れてくるよ」

 マックスは馬達の所に行き、手綱を持って戻ってきた。

「よし行こうぜ」

「どうするんだその馬。向こうの館まで連れて行くのか?」

「いや、途中の町で預けていくさ。馬を見てくれる所があるんだ」

 無人街の南には町があった。少し傷んだ建物が並んでいるが、店もポツポツと開いていて割と賑わいを見せている。道路はない。どこか南米を想像させる街並みだ。慎二は馬を止めてため息をもらした。

「は~。なんだ、いるじゃないか、人。あんたらがサバイバル生活してるからてっきり無人島みたいなものかと思ってたよ」

「そりゃいるよ。俺達を何だと思ってたんだお前は。少し多めに狩れたりしたら町に売りに来るんだ。けっこういい金になるんだぜ」

「じゃあ俺は馬を預けてくるからよ。二人は先にいつもの酒場で昼メシでも食っててくれ。すぐ行くから」

「ああわかった。一応そのへんにアルサミン一家の連中がいるかもしれねえから気をつけろよ」

「ああ、じゃあまたな」

 マックスは馬を連れてどんどん進んでいった。

「じゃ、俺達もあそこに馬を停めてメシ食おうぜ。ガイルと会うのなんざメシ食った後でいいだろ」

「ああ」

 二人が馬を繋いで立った店の扉は胸のあたりだけしかない両開きの木の扉だった。慎二は興奮を隠せない。

「おいおいマジかよ、ウエスタンか!」

「あ? なんだよ興奮して。どこにだってあるだろこんなの」

「いや日本人は普段見ないタイプなんだよ。ちょっとワクワクしちまった」

 ガンホーケンがドアを両腕で押して店に入っていく。慎二も後に続いてドアの感触を楽しみながら押して店に入った。

 店内には酒場とはいえ昼時だからか、まあまあ客が入っている。数人がガンホーケンの姿を認め、動揺する者、眼をそらす者、気にしない者と様々な反応を見せる。ガンホーケンが目立つためか後ろにいる慎二には気付かない者も多いが、慎二と目が合った数人は全員、何かを察すると急いで目をそらした。

 二人でカウンターに腰掛けるとガンホーケンはコップを拭いているマスターに話しかけた。

「ようマスター元気そうだな。昼飯頼むよ」

「やあガンホーケン。あんたも元気そうだ。今作るからこれでも飲んでちょっと待ってくれ。ええとこちらの人も同じでいい……」

 ガンホーケンの声ににこやかに顔をあげたマスターは慎二を見て、サーッと血の気が引いていった。

「あ、あんた……この島の人じゃないよな。まさか……」

「そのまさかだよ。こいつは本沢慎二。ちょいとあって俺達と一緒にいる召喚士だ」

 店内が静まり返った。召喚士と聞いてゴクリとつばを飲み込む男が慎二の視界に入った。

「そ、その……あ、会えて光栄だ慎二さん。マスターのジョンだ。よ、よろしく」

「ああ。よろしくマスター。驚かしてすまない」

 ガンホーケンは二つのコップにビールを注ぎ一方を慎二に渡した。

「大丈夫だよマスター。この店で暴れたりはしないさ、なあ?」

「そりゃそうだろ、猛獣じゃないんだから」

 マスターは思っていたより分別のありそうな慎二に少し安心したのか、顔をほころばせた。

「あ、ああそうだよな。それはそうだ。ちょうどパイナップルも仕入れたところだ。食べるかい?」

「いいね。頼むよマスター。好きなんだパイナップル」

 何事も起きない三人の空気に安心したのか、店内は控えめだがそれぞれ食事を再開し始めた。ガンホーケンがコップのビールを飲みほした時ちょうどマックスが店に入ってきた。

「えーっと……おっいたいた……いてっ!」

 入口に突っ立ってガンホーケンを探していたマックスに、後から店に入ってきた上半身裸のロン毛の男が肩をぶつけた。

「何突っ立ってやがんだボケが! 邪魔なんだよ!!」

 手に持っていた酒をグイッと飲みながらロン毛が悪態をついた。ガラの悪そうな黒髪の上半身が入れ墨だらけの男と、スキンヘッドに顎鬚を三つ編みにした男が二人続いて店に入ってきた。店内が再び静まり返った。

 ロン毛はガンホーケンの後ろを通り過ぎると、ガンホーケンに気付き隣にドカッと座った。

「おいおいガンホーケンてめえまだ生きてやがったのか!」

「ああ。山の幸は健康にいいんだ。お前こそとっくにくたばったと思ったがな」

「ハッ! ドングリ食って生きてるような奴より先に死ぬかよ!」

 他の二人も席に座りゲラゲラと笑いながらガンホーケンのビールを取り上げ勝手に飲み始めた。

「山の幸だけじゃねえ。海にも行くんだ。俺の隣にこの前釣れた大物が座ってるだろ。見えるか?」

「ああ?」

 三人はガンホーケン越しに慎二を見た。

「誰だてめ……」

 慎二を見て固まった三人を見ながらマックスは慎二の横に座った。

「謝ったらどうだ?」

 ずっと黙っていた慎二が口を開いた。

「あ?」

「マックスに謝ったらどうだ? 今ならそれで見逃してやる」

 マックスは指をロン毛に向かってチョイチョイと曲げて挑発している。

「ふざけんな!! 誰がてめえみたいなクソガキに……!!」

 勢いよく立ち上がったロン毛の横に突如大きなシカが現れ、角で思い切り男を上に突き上げた。天井に叩きつけられたロン毛は椅子に体をぶつけながら床に落下してそのまま気を失った。

 店内に現れた召喚獣に客は驚き怯えている。ガンホーケンはのびているロン毛を見て感心した。

「これが慎二の山の幸アタックか」

「勝手に名前を付けるなよ」

 シカがロン毛の二つ隣の三つ編み男の方を向くと、三つ編み男は驚いて椅子から転げ落ちて尻もちをついた。マックスはポリポリと眉毛の上を掻いて残りの二人に話しかけた。

「あーそのなんだ、俺のせいでこいつふっ飛ばされちまって悪かったな。俺はお前らなんぞ気にしてないから起きたらよろしく言っといてくれ」

 マックスの態度が癇に障ったロン毛の隣の席の入れ墨男は銃を抜いた。が、抜いた瞬間マックスが慎二の皿にあったナイフを投げつけ、男の腕の肩の近くを切りつけると、一瞬ひるんだ隙にガンホーケンが飛び込み、左手で顔を押さえ左足で男の太ももの裏に足をかけると、顔を押されてバランスを崩した男は床に後頭部を打って悶絶した。

 取り落とした銃を足で踏んだマックスは、残った三つ編み男にシッシッと手で追い払うジェスチャーをした。

「ビール代置いてさっさと消えろ」

 なんとか動けるようになった入れ墨男と三つ編み男はロン毛を抱えて店を出て行った。慎二のシカが消えると、マックスは席に戻りマスターに自分の分を注文して慎二に話しかけた。

「あれがお前の召喚獣なんだな! すげえ力でびっくりしたぜ。いつの間に使えるようになったんだ?」

「この前狩りに行った時にな。あいつらは誰なんだ? どこかの一家なのか?」

「いや、あいつらは元海賊やってた連中だよ。大陸の連中が外海で幅を利かせるようになって外に出られなくなってな。今じゃすっかりただの飲んだくれだ。ただのゴロツキだよ」

「そっか。マスター、ナイフくれないか。マックスがぶん投げちまったからさ」

「あ、ああ。さすがだなあんた達。ライン一家もいよいよ御三家に割り込む時が来たってわけだ」

 ガンホーケンは肩をすくめた。

「俺はそんなつもりはないんだがな。ま、偉くなってもここにはお世話になるからよろしくな」

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