四
慎二が翌朝目を覚ました時にはすでにマックスとガンホーケンは朝食を取っていた。
「よう。ずいぶんお疲れだったようだな。ロックが顔を舐めてたが全然起きなかったぜ」
「ん、ほんとだ顔がよだれくせえ。あんたもあんなに酔ってたのに元気そうだな」
マックスはケロリとしてコーヒーを飲んでいる。
「へ、あのくらい平気だろ。それより狩りに行くんだろ」
「ああ。そうだマックス。世界地図とかないか? この島がどのあたりにあるのか知りたくてな」
「世界地図? あ~どこだったかな。テントのどこかにあったから探しといてやるよ。だいたい日本の南だよここは」
「悪いな」
ガンホーケンが銃を二丁持ってきた。一丁は慎二の分らしい。慎二は使い方は分からないもののとりあえず受け取った。
「狩猟に使える最新のライフル銃はこの二丁だけだ。大事に扱えよ。朝メシ食ったら出発だ。少し南の森に行くぞ。他のファミリーの連中に会うかも分からねえ。油断だけはするなよ」
「ああ」
「マックスは今日は馬の世話をした後ロックとビーチで遊ぶ予定らしい」
「そういうことだ。体力のいる仕事だぜ」
「昨日の今日で大丈夫なのか? また戦闘なんてことにならなけりゃいいが」
「昨日も言ったがあそこまで人が来るのは珍しいんだ。それにいきなり俺達にぶっ放してくるような奴らはいないし問題ないだろ」
「ふうん。そうだ、宝ってのは近づけば分かるもんなのか?」
ガンホーケンが肩をすくめてマックスを見ながら答えた。
「分かるらしいぜ。俺たちは見たことねえけどな。なんせ数年に一度のお宝なんだ」
「俺は近くまでは行ったんだが実物は見れなかった」
「昨日も言ってたな。どういうことだ?」
マックスは頭を掻いた。
「いや実はよ、七年前に島の西にある森で激しい戦闘があってな、何人死んだか分からないような状態だった。俺はまだガキだった。俺はたまたま森の中で一緒になった日本人と行動してたんだが近くで銃声が聞こえたんだ。その時そいつが俺にガキは動くな、邪魔だからここにいろって言って俺を置いて先に行った。そして奴が歩いて行った先にすごい光が空から落ちてきた! 俺は気になって奴の後を追った。森の中を掻き分けて進んだ。でも光が見えたあたりに俺が着いた時にはあいつも、空から落ちてきた光も無かったんだ。だから俺はニアミスというか、実物は見てないんだよ。でもあれが昔聞いたグングニルの槍だったんじゃないかって俺は思ってるんだ」
「ふうん。今頃そいつどうしてるんだろうな?」
「分からねえ。島の外に出るとは思えねえがな」
なんだか不思議な話だ。釈然としない慎二にガンホーケンは笑って付け加えた。
「まあ、探してるって言っても俺とマックスだけだ。他の奴らはマックスのホラ話だと思って大して気にしてねえよ。ここで気楽に暮らしてるだけだしな」
「宝探しは暮らしてるついでに趣味でやってるってことだな」
ガンホーケンは馬に乗った。
「そうだ。宝もいいがまずはシカだ。行くぞ慎二、馬に乗れ。銃も積めよ」
「ああ、よっと。じゃあなマックス。気をつけろよ」
「ま、そっちも頑張れよ」
マックスを尻目に慎二とガンホーケンは馬を駆って野営地から南に走りだした。
(グングニルの槍か)
たしか北欧神話に出てくる戦いの神オーディンが持っている槍だ。オーディンは来たる神々と巨人族との戦い、ラグナロクのために戦士エインヘリアルを集めていたという。その槍には何かすごい力があるのだろうか?
(高く売れるかな? 手に入れればこのくだらねえ人生も好転するのか?)
慎二はガンホーケンに続きながら自分の置かれた状況にため息をついた。