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 草原を走るとやがて小規模な野営地が見えてきた。あれがライン家のアジトなのだろうか? なんとなく館をイメージしていただけに慎二は面食らった。

「もしかしてゴージャスな館を想像してたのか?」

「あ、いやそういう訳じゃねえけど。戦争しているようなファミリーのひとつっていうからマフィア映画みたいな家が出てくるのかと思って」

 見えるのはテントや薪、馬ばかりでこれではマフィアというより遊牧民だ。マックスは野営地に入って馬を停め、慎二の前を歩き出した。

「マフィアってのが何だかは知らねえが……言ったろ。最弱の一家だって。三十人ほどのファミリーなんだ。デンと館なんか構えてたらすぐにやられちまう。といっても俺達は現在あの抗争にも関わってないけどよ。この島を自由に動いて暮らしてるんだ。縄張りなんか無いも同然だ」

 マックスに続いて歩く慎二を他の人達は友好的な目で見ている。笑顔の者もいた。慎二は笑みを返したりしながら歩いたがこんなに歓迎される理由はいまいちわからなかった。やがて野営地の中心にある大きなテントに着いた。

「ガンホーケン! マックスだ」

 ガンホーケンと呼ばれた男がマックスに気付いて顔を上げた。片側を剃り上げ、片側は少し白髪が入ったモヒカンの男だ。四十代くらいだろうか。

「よおマックス。町はどうだった?」

「いや、町は変わりなかった。ただビーチでエレーネが暴れてたぜ」

「そうか。それより後ろの奴はもしかして?」

「ああ。砂浜に倒れてたんだ。外から来たんだ、おそらく召喚士の資質を持ってるだろう」

 慎二はポカンとしていたが気を取り直して自己紹介した。

「俺は本沢慎二、船が転覆してここに流れ着いたらしい。マックスに酒をもらってここまでついて来ちまった。迷惑じゃなければ少し滞在させてもらって日本に帰る手を見つけるつもりだが構わないか?」

「大歓迎さ。俺がライン・ガンホーケンだ。召喚士がいないファミリーだからずっと他の奴らにデカい顔をされて困ってたんだ。少し力を貸してくれると嬉しい。この島の事情はマックスから聞いたか?」

「大体の所は聞いたんだが正直よく分からない。そもそも召喚士って何だ? 俺はただのレストランの店員だぞ。そんな特別なものは持ち合わせちゃいない」

 マックスが口を開いた。

「説明しなくて悪かったな。さっきはとにかく逃げなきゃまずかったからよ。こっちに来てくれ、今の状況を説明する」

 ガンホーケンは少し脇にどき、マックスがテントの中心にある大きな木の机の前に慎二を誘導した。持っていた荷物を近くの机に置き、中心の机に棚から取った大きな紙を広げた。何やら地形が書かれている。どうやらこの島の地図のようだ。人形のようなものが三つ紙から散らばり、マックスはそれをつまんでトントンと配置した。

「これって?」

「ああ、この島の地図だ。お前がいたのはこの東の海岸だ。で、そこから少し北に走ったこの草原が今俺達がいる所だ」

「なるほど、ところでこの人形はお前が作ったのか?」

「ああそうだ。駒を置いたほうが分かりやすいだろ」

「なるほど。すげえ下手だな、顔がやべえよ」

「うるせえな! それは今いいんだよ! そいつらが召喚士だ。召喚士ってのは異界から怪物とか騎士とかを呼べる連中のことだ。出てくる連中が揃いも揃って戦闘に特化した奴らばかりでよ、一人いるだけで大変けっこうな暴れっぷりを発揮してみんなを困らせてるって訳だ。で、さっきの白い女がこの白い人形だ。エレーネって奴で、馬に乗ったナイトを何体か召喚できる。頭のネジがぶっ飛んだ奴だ。この島の南にある館に拠点がある」

「あいつがボスなのか?」

「いや率いているのはアルサミン一家のガイルって奴だ。あいつはガイルに拾われてそれ以来ガイルの用心棒というかなんというか、まあ暴れ役だ」

「なるほど。こっちのは?」

 慎二は西にある人形を指差した。

「そいつはバーモン家のヨシュアが連れてる召喚士だ。ルドルフってオヤジなんだが……」

「なんだ?」

「正直よくわからん。獣を呼ぶような能力だって話だが、生き延びた奴の話がどうもまとまりが無くてな。獣が火を吹いたって話もあるが、それより奴の周りにいた兵士がやたら強くてそれどころじゃなかったって話でよ。ま、町の連中から聞いた話だ。本当かどうかは分からねえ。用心に越したことはないがな」

「町があるのか?」

「ああ。さっきいた場所はもう無人だがよ、あそこより少し南にも町があってそっちにはまだ多少暮らしている奴らがいるんだ。俺達もたまにそこに調達に行くんだが。さっきの海岸のほうまで人が来るのは珍しいんだ」

「へえ。日本に帰るにはどうしたらいいんだ?」

「うーん、町に船着き場はあるんだがよ。そこから船で出るっていうのは難しいだろうな」

「え? どうしてだ?」

 マックスが調達してきた荷物を物色していたガンホーケンが会話に入ってきた。

「残念だけどよ、船で海に出た瞬間にお陀仏だ。俺達の船は海賊として即沈められちまう。あの港は大陸からの船限定ってわけだ。島から出られるのは町の鉱物と貝殻でできた装飾品と……あとはまあ色々あるがそういった物だけだろうな」

「そうか」

「まあ気を落とすな。ここだってろくでなしが暴れてることを除けば楽しい島だよ」

「それが一番問題な気がするがな。あ、すまねえなマックス。話がそれちまった。それでこの真ん中にいるこいつが最後の召喚士って訳か」

「ああ。島の真ん中にでかい湖がある。その近くに館を構えてるナイブズ一家ってのがいて、その当主ルインスキーお抱えの召喚士だ。ポスクとかいうジジイでこいつも何を呼ぶかよく分かってない。奴らとやり合った奴らは全員殺されてるからな」

「しっかり分かってるのはあの女だけってことか」

「ああ。そして召喚士に共通するのは皆この島の外から来た連中ってことだ。だから皆それぞれ外から来た人間を抱えて戦力を強化してこの島の覇権を狙ってる」

「俺もこの島の外から来たから召喚士かもしれないってことか」

「そうだ。体にイバラのような痕ができていれば召喚士らしいがどうだ?」

 慎二は体を見回して点検した後、ワイシャツの胸元を開けてみた。確かにイバラの入れ墨のような痕ができている。

「あるな。ちょっと呼んでみるか。手をかざせばいいのか?」

「ちょ、ちょっと待て! ここで呼ぶんじゃねえ! でかいやつだったらテントが壊れちまうだろう!」

 ガンホーケンの目も期待に輝いている。

「よ、よし慎二! 野営地の外で呼んでみようじゃないか! 俺も見たい!」

 三人は外に歩いて行き、少し開けた所で足を止めた。

「よし、このへんでいいだろう。白い女は腕を広げてたが別にやらなくてもいいのか? なんとか〜!とか言うのか?」

「いや別に必要ない。ただ呼ぼうと思えば異界から何者かを召喚できるらしい。一応手をかざせばいいだろう」

「よし。やってみる」

 慎二は手をかざしてとにかく呼んでみた。かざした掌が紫色にぼんやり光った。しかしそれ以降特に何も起きず、周りにも何か来た気配はない。

「あれ? 何も来ないぞ」

「おかしいな。念じる度合いとか何かあるのかな。もう少しやってみてくれ」

「ああ」

 慎二はさらに念じてみた。手がぼんやり光るだけでその後も特に変化は無い。と、野営地のほうから黒い柴犬が猛然と走ってきた。

「お!? こいつか!?」

 マックスは笑いながら犬の頭を撫で始めた。

「あ、いやこいつはガンホーケンの犬だ」

「なんだ。じゃあ俺は召喚士じゃないのか。ガッカリさせてすまねえな」

 しかしガンホーケンには落胆した様子は無い。首を横に振った。

「いや、掌が紫色に光ったんだ。お前は召喚士だろう。何を呼べるのかは分かってないがもともと説明なんか無いシロモノなんだ。この場で呼べなくても気にするな。こういう場所では呼べない類のものかもしれない。魚とかな。水辺に行ったら試してみてくれ。さあ、戻って夕食にしよう」

 ガンホーケンは野営地に歩いて行った。柴犬が慎二に寄ってきた。手を伸ばすとペロペロ舐めている。

「かわいいなこいつ。名前は何て言うんだ」

「ロックだ」

 ロックはマックスに指示されてその場にお座りした。

「それで宝っていうのは?」

 ガンホーケンは周りを見ながら口を開いた。

「グングニルの槍って言われてる。戦いの神オーディンが持っていた武器だ。どんな物かは分かってないがすごいお宝だって話だ。もう五年ほど探している」

「五年も? 本当にそんなもんあるのか?」

 慎二は半信半疑だ。

「ある。七年前にも一度見つけた奴がいたそうだ」

「え!? ひとつじゃないのか!?」

「わからん。手に入れた奴は何を思ったのかグングニルの槍ごと消えちまったらしいんだ」

「うーん。こう言っちゃ悪いんだがその話は本当なのか? どうもよくわからん」

 マックスはロックを撫でながら言った。

「あるさ。グングニルの槍は実在する。以前見つけた奴は俺も知ってる奴だ。お前と同じ日本人だよ」

「え!? そうなのか?」

「ああ。グングニルの槍に辿り着いた先で奴は消えちまった。それ以来見ていない。もし生きているなら、お前より少し年上だな。えーっと、三十歳くらいだ」

「ふ〜ん。だから俺を見てすぐ日本人て分かったのか」

「ま、そういうことだ。もし奴がどこかでくたばるなりして槍を落としたならどこかにあるはずだ。それよりよ、日本に帰るっていってもすぐには出られないだろうし、とりあえず野営地に戻って腹ごしらえと行こうや」

 慎二は頭を掻いた。

「ああ、そうだな。世話になるよ」

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