十八
ネオンでギラギラした歌舞伎町は今夜も人で溢れかえっている。今夜はやたらと外国人の若者が多いが最上にはそんなことはどうでもよかった。
(ケッ、クソみてえな奴らがわんさかいやがる)
最上小太郎は歌舞伎町を歩きながら今夜の最初の獲物を探していた。暴れる時に最初の獲物を決めるのが最近の楽しみだ。
最上は十三年前に仕事をクビになってから何もかもが上手くいかなくなった。住む場所も生きる希望も失い、自殺を図ろうと吊り橋から飛び降りたら気付いたら南国のような島にいた。そこには召喚獣を手に入れた自分が好きなだけ暴れる場所があった。
最高の気分だった。敵の悲鳴を聞きながら生温かい血飛沫を浴びるのが好きだった。レイチェルとかいう女もいた。子供ができたがどうでもよかった。ずっとずっと好きなだけ暴れていたかった。
島で暮らし始めてから十年ほど経ったある日、最上は森で空まで続く光の柱に出会った。不思議に思って光に触れたのがまずかった。最上は日本に戻され、召喚獣はいるものの、また元の惨めな生活に戻ってしまった。日本では島と違って腹も減る。食い扶持も稼がなければならない。
裏の仕事でなら稼げるかもしれないと思って一度暴力団の事務所に行ってみたが、案の定まるで相手にされず、組員の最上を見下した態度が気に入らなかったので最上は全員を挽き肉に変えて事務所を後にした。
映画に出て来る殺し屋のような仕事をやってみたかったが、そんな人間と接触する方法など分かるはずも無い。結局仕事でトラブルになった人間に嫌がらせで召喚獣を使ったり、こうやって通り魔みたいな事をして憂さを晴らすだけの毎日だった。
「お兄さんどう? かわいい娘いるよ」
呼び込みの男に声をかけられたが最上は無視して通り過ぎた。夜の街には欲望を満たしたい人間が集まる。俺の欲望も満たして何が悪い? 店の前で楽しそうにおしゃべりをしている若い数人のギャル達が最上の目に入った。彼女達はどんな悲鳴を上げるだろう?
(お前が怯えながら死ぬ所を見せてくれ)
最上は建物の隙間にある裏路地に入り、暗がりからギャル達が立っている店の反対側にある建物の入口に魔獣を召喚した。呼び出した魔獣の目が入口で紫色に光っている。通りに出てきた魔獣に気付いた男が叫び声をあげた。
「お、おいあれ! 魔獣だ!! 魔獣が出たぞ!!」
外国人達も声につられて魔獣のほうを見た。魔獣がギャル達のほうに走り出した。するとどこから現れたのか、外国人達が魔獣の前に大量に立ち塞がり、魔獣に掴みかかった。
(なんだこいつら!?)
組み伏せられた魔獣は全力で暴れ、外国人達にかみついて引きちぎり、爪で体を引き裂いた。周りから悲鳴が上がるが男達から出血は無かった。外国人の若者達は仲間が死んでもまったく怯まず、ギャル達を守るために魔獣に掴みかかってくる。
(どうなってやがる! ただの人間じゃねえのか?)
ふと最上は背後に気配を感じ、振り返ろうとした瞬間、背中に衝撃が走った。
「うぐっ……!」
ズッと背中から何かが引き抜かれ、最上はその場に倒れた。視線を上げると見覚えのある美少年が血に濡れたナイフを持って立っていた。
「ふ、冬月……か? ……てめえなんでここに……」
最上は急激に意識が遠くなっていくのが分かった。
(俺は……こんな所で死ぬのか……)
最後に通りの光を見ようと仰向けになり、頭を動かした。すると通りに立っている野次馬に紛れて、こちらを見ている一人の男が目に入った。逆光でよく見えない。
「誰……だ……」
慎二が最上を見ながらボソリと呟いた。
「あの世で店長とマックスによろしくな」
最上の視界が闇に包まれた。
二〇五〇年。機甲兵の力を手にした帝国は近隣諸国に侵攻を開始すると瞬く間に領土を広げ、数年で西側諸国を完全に掌握した。その数年後に日本にも侵攻を開始したが、機甲兵を遥かに上回る数の不死身の日本兵による予想外の抵抗を受け、さらに侵入経路、脱出方法が一切不明な帝国将校の暗殺が続くと、完全に戦況を読み違えた帝国は日本と和睦し、不可侵条約を結んだ。
その条約は二一〇〇年を過ぎた現在でも続いている。
本沢慎二は、二〇六三年にこの世を去った。
楽園の猛毒 完




