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十三

 慎二達はバーモン一家のアジトを目指して徒歩で西の森を突き進んでいた。馬は館に繋いできた。ガンホーケンは攻撃を仕掛けてくるなら絶好の場所であるこの森を警戒するよう全員に伝えてある。四人ずつ分かれて前方に五部隊、中央の後ろにガンホーケン、慎二、エレーネを含む部隊で散開しながら進んでいた。マックスは中央の前の部隊にいる。

 中央の最後尾にいる慎二はガンホーケンにそっと話しかけた。

「ここで仕掛けてくると思うか?」

「館の中で待つという手もあるが……協力しているのならけっこうな人数だ。籠城するよりここで迎え撃ったほうがいいと俺だったら思うんだが、どうだろうな。向こうがもめて潰し合いになってればいいんだが」

 その時右の前列のほうから銃声がした。

「そうはいかないらしいな、やはり来たか。慎二、兵を右に出せ」

 慎二は右の二部隊に兵を召喚した。片膝をついた兵がそれぞれ部隊を見ると、右の二番目の隊にいる若者が一人肩を撃たれて脂汗をかいていた。レットという金髪の若者だ。

「右の二だ。一人撃たれてるな。兵を十人前に歩かせるから進む間にレット達を下がらせるぞ」

 慎二はしゃがんでいる兵でレット達に下がるよう指示し、十人を前に歩かせた。敵が十人を見つけ、一斉に撃ち始めた。

「エレーネ、俺の兵を少し下がらせるから合図したらナイトを出してくれ。全員が見えたら叩く」

 慎二の兵が倒されたふりをしてどんどん地面に倒れながら部隊を下げると、敵は姿を現し、慎二の兵をまたいでどんどん前に詰めてきた。十五人ほどの集団だ。

 慎二はレットの横にいる兵で合図し、レットの横にいる若者に一発銃を撃たせた。敵の集団は反撃に驚き、その場で伏せた。慎二の兵達が次々と起き上がり、後ろから敵を羽交い絞めにした。敵は今通り過ぎた死体達が自分達を羽交い絞めにしていることに驚きと恐怖の色を隠せない。自分達の周りに慎二の兵が次々と現れ残りの五人に掴みかかった。

「な!? なんだ……こいつら! んんん!!」

 わらわらと現れて襲い掛かる召喚人達に、敵は銃を撃つ間もなく動きを封じられ声を出せなくなった。そこに慎二の合図を受けてエレーネのナイトが数体現れ、ハルバードで慎二の兵もろとも敵を殲滅した。

 レット隊がガンホーケンに合流し、レットの手当を始めた。

「始末したぞ。十五人程の連中だった」

「どうやら先走って撃ってきた奴らだな。奇襲に失敗して他の部隊はすぐには追撃してこないだろう。レットの手当をする、いったん館まで退却だ。慎二、兵を所々に配置しながら退却してくれ。皆が退却するまで俺が来た敵を攻撃する」

 手当されていたレットはガンホーケンに向かって首を振った。

「俺なら大丈夫です。大した怪我じゃありません。一人で館まで戻れますから」

「本当か?」

「はい」

「よし。じゃあ先に進むぞ。慎二、お前の兵でレットの分を補充してくれ」

「わかった」

 慎二の兵が右の部隊に合流し、じっくりと様子を見ながら進軍したが、奇襲の失敗で策を変えたのか森の中で敵に出くわすことはなく、一行はバーモン家の教会が見える位置まで進み、昼前には教会の前に着いた。


 森が切れる場所で膝をついて様子を見る。後ろにいたガンホーケン達も同じ位置にしゃがんで教会の方を見た。少し開けた場所に建っていて、こちらから向こうが丸見えだった。

 マックスがガンホーケンの横に歩いてきた。

「ずいぶんこっちに有利な場所だな。襲い放題じゃねえか」

「いや……逆だ。見てみろ」

 ガンホーケンに言われて教会をよく見るとあらゆる窓から敵が見ている。敷地内にも手作りの柵などが建っていて、その向こうに待ち伏せているのがちらちらと見えている。

「これじゃ出て教会に行くまでに狙い撃ちだ。生身でたどりつくのは難しいだろうな」

「じゃあ夜まで待ってから行けばいいんじゃねえか? 見えなきゃ撃てねえだろ」

「いや、さっきの戦いで近くに来てるのはバレてるんだ。夜になる前に森に火を放たれたらこっちが危ない。いったん出直すか」

 慎二とエレーネが顔を見合わせると二人は笑った。

「何言ってんだよ。生身じゃなきゃ簡単じゃねえか。銃を貸してくれ、念のため二丁ありゃ充分だ」

「バカねあいつら。慎二相手にわざわざ見える所で待ち伏せなんかして」

 若者から銃を二丁借りた慎二は兵を三十体召喚し、その中の二体に銃を渡した。

「行くぜ」

 召喚兵が一斉に森から出て教会に向かって歩いていく。敵陣から叫び声がして柵の向こうや窓から召喚兵を撃ち始めた。が、慎二の召喚兵は撃たれても体を揺らすだけで気にせず前進していく。

 やがて敵がいる柵を乗り越え敵の姿を認めると、素手で襲い掛かる集団に紛れて銃を持っていた兵が軍服の敵を撃った。そして射殺された敵と同じ姿の兵を召喚し、銃を持たせて敵に向かって撃ち始めた。慎二の兵と敵が入り乱れ、芋づる式に敵が兵に変わっていき、やがて敵味方の区別がつかなくなった敵は混乱の中あっという間に全滅した。

 軍服を着た敵兵集団と元々の慎二の兵達が窓にかじりつき中の様子を見ている。教会の中から見ていた集団は、味方が敵にすり変わっていく光景にみな恐怖に震えていた。慎二の兵が窓を叩き割り中に入ろうとし始めた。

 二階で様子を見ていたルインスキーは叫んだ。

「中に入れるな! 敵味方の区別がつかなくなるぞ! ショットガンで応戦しろ!」

 命令を受けて、敵の集団は窓から入ろうとする慎二の兵達をショットガンで撃ち応戦し始めた。撃たれて吹き飛ばされた兵が地面に崩れ落ちるとすぐに新しい兵が補充されて再び窓に詰め寄ってくる。悪夢のような光景に敵は恐慌寸前だが、窓からポスクが従者二人を率いて飛び出してきて敵を斬り刻みながら着地した。

「お人形遊びでいい気になるなよ小僧」

 三人で一度武器を自分の正中線の前に持って立ち、そこから一気に兵に向かって走りながら斬りかかってきた。兵の銃で応戦するが銃が見えている時点で軌道を読まれ簡単にかわされてしまう。町で戦っていた時より数段速い。

 三つの高速の複雑な円が煌めき次々と兵を屠っていった。しかし慎二の兵も斬り殺されたと思うとまた召喚し直され銃を持ったりつかみかかろうとする。窓の中に入ろうとする兵も中の敵と応戦し、終わらない激しい殺陣が続く。

 ポスクは自分の足首を掴んだ慎二の召喚兵が今斬り伏せたばかりの男だと気付いて呻いた。

「むっ……小僧め、駒の数の割には召喚速度が速い!」

 ルインスキーが森から追撃がないか窓から様子を覗くとすぐに異変に気付いた。白いドレスとドレスハットの女が草原を優雅に歩いてくる。

「くっ……や、やばい……!」

 エレーネの前にナイトが二十体現れ、馬が地面を蹴り始めた。エレーネが指を鳴らすとナイトの兜の中の炎が激しく揺らぎ始めた。

「やばい! エレーネが来る!! ポスク殿、引くんだ!」

 しかしポスクが下がろうとするとすぐさま慎二の兵が銃でポスクに向かって引き金を引き、ポスクは引くに引けずその場に釘付けになっていた。

「くっ……! 小僧!」

「力押しで何とかなると思ったのか? この場に出た時点であんたの負けなんだよ」

「うっ……うおおおおおお!!」

「おやすみなさい」

 エレーネの声を合図にナイトが突撃し、慎二の兵達もろとも全速力で教会に突っ込んだ。凄まじい音と共に粉塵が巻き上がり、煉瓦と死体を撒き散らしながら教会の壁一面を無慈悲に破壊してナイトは消滅した。

 エレーネはナイトを足場にして空中をステップして飛んで行き、二階の窓ガラスを突き破ってルインスキーの前に飛び込んだ。

 回廊で光を浴びながらエレーネは身だしなみを整え、満面の笑みのルインスキーと対峙した。

「ごきげんようナイブズ。私たち二人に喧嘩を売った感想はどう?」

「最高に興奮しているし、最高に後悔しているよ。素晴らしい! お祈りの時間をくれるかな?」

「どうぞ」

 ルインスキーはエレーネに向けて銃を撃ったがナイトが防ぎ、ハルバードでルインスキーを斬り伏せた。

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