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「ぷはー! うめえ!」

 マックスがビールを飲んで叫んだ。ライン一家はアジトをアルサミンの館に移した後、改めて町の酒場で祝勝会を開いていた。

「マスター、鳥の唐揚げ追加な!」

 マスターのジョンはライン一家に店を一晩貸し切りにしてくれた。アルサミン一家よりはライン一家のほうがマシだとは口が裂けても言わなかった。慎二はカウンター越しにマスターに話しかけた。

「すまねえなマスター、店を貸し切りにしてくれて」

「いや、いいんだ。どのみち今日は客が少なかったし。あんた達が来たらもう他の客はびびって入ってこないしな」

「それもそうね。私たちの顔を見て窓を閉めるような連中ばかりだもの」

「あれ? あんた確かアルサミン一家の……?」

「違うわ。あそこで勝手に暮らしてただけよ」

「エレーネだ。俺達と行動することにしたのさ。じゃ、料理もらっていくぜ」

「はぁ~。こりゃすごいことになったな」

 マスターはため息をもらして奥の席に歩いて行く慎二とエレーネを見ていた。

「あいつら気が合うみたいだな」

 ガンホーケンが慎二達を見ながらマスターに話しかけた。

「やあガンホーケン」

「若いってのはいい。なあ?」

「あんたもまだ若いだろ」

「若くたって、こう色気がない島じゃな」

「フッそれもそうだ。一杯どうだい?」

「いや俺はいい。ちょっと外に出てくる」

 慎二とエレーネは二人で奥のテラス席で静かに乾杯した。夜の風が心地よい。

「このワイン飲みやすくてうまいな」

「南米のほうのワインね。日本人の口に合うし安いから日本ではけっこう売られているはずよ」

「へえ、詳しいんだな」

「フフ。別に詳しいわけじゃないわ。この島に来る前にワインを飲む時にスマホで調べたことがあるだけよ。その時は普通にイタリアのを飲んだけど」

「スマホ? スマホってなんだ?」

「何って言われても。携帯よ。詳しいことは分からないわ」

「ふうん。聞いたことないな。外国の機械か? そういえばこの島に来る前はどこにいたんだ? エレーネも召喚士ってことは外から来たんだろ?」

「シチリアって島にいたわ。帝国からの機甲兵が現れて占領されてしまった島で私は生まれたの。管理オートマータ兵の監視下にはあったものの住人は表面上は普通に生活していたわ。でも私が二十一になった時、レジスタンスとの衝突が起きた。でも再び現れた機甲兵に制圧されてしまって。レジスタンスに入っていた両親はその時殺されたわ。私は必死に逃げたけどドローンの無重力球生成装置で捕らえられて帝国に連れて行かれて売られることになった。でも途中で私を乗せた輸送機はレジスタンスのEMPランチャーに補足されて海に落下した。気が付いたらこの島にいたのよ。それから十五年くらい経つかしらね。この島にいるとなんだか時間の感覚がなくなるから」

「シチリア島ってのは聞いたことがある。それはいい。ただ機甲兵とか無重力球生成装置ってのは聞いたことがないんだが」

「え? 知らないの? 嘘でしょ? いくら平和な日本でもニュースとかでくらい聞いたことはあるでしょ? 帝国最強の少数の戦士達よ。帝国が公表していない技術で突如出現するの」

「うーん……ない」

 ふと思いついた質問をぶつけてみた。

「なあエレーネ。その時西暦何年だった?」

「二一〇〇年よ」

 その時中央で酒を飲みながら踊っていたマックスが慎二達のところにふらふらと歩いてきた。

「うぉぉい慎二! 主役がなに外で女とコソコソしてんだよ! 少しはこっちきて踊れよ!」

「悪い悪い、もう少ししたら行くよ。今エレーネの話を聞いてたんだ」

「ああ~あれだろ? オートなんたらがトロンみたいな。俺もガキの時に聞かせてもらったけど何言ってんだか全然わからなかったよ。慎二に変な話吹き込むなよなエレーネ」

「別に嘘は言ってないわよ。あんたは大人になっても全然変わらないのね」

 マックスは肩をすくめてまたふらふらと歩いて行ってしまった。ふと慎二は以前マックスがエレーネのことを頭のネジがぶっ飛んだ女と呼んだことを思い出した。

「そうか」

「なに?」

「俺がこの島に来たのは二〇〇〇年だ」

 エレーネは慎二の顔を見た。

「百年前の男も変わらないのね」

「百年後の女も変わらないな」

 二人はクスッと笑った。

「時を越えた出会いに乾杯しよう」

「ええ。乾杯」

 二人のグラスが静かにチンと音を鳴らした。


 酒の味と沈黙をしばし楽しんでいた時だった。通りを歩いてくる二人の人影が現れた。

「楽しんでるようだなお二人さん」

 明かりで浮き上がったルインスキーとポスクがテラス席の前の通りで立ち止まり、二人と対峙した。

「誰だ?」

「あら、ナイブズとポスクじゃない。こんな所でお散歩かしら?」

「驚いたよエレーネ。ガイルになついてると思ったらいつの間にかライン一家についたのか」

「あんなむさいハゲよりシュッとした日本人のイケメンの方がいいに決まってるじゃない。それより何しに来たの?」

「お初にお目にかかる、ライン一家の召喚士よ。私はナイブズ家の当主、ルインスキーだ」

「あんたがそうか。ということはそっちが召喚士か」

「ふーむ。ずいぶんと隙だらけじゃの。よほど能力が強力なのかね」

「さあな」

 慎二の様子を見に来たマックスがルインスキー達を見てもつれながら叫んだ。

「てってめえら~なんでここにいるんだぁ?」

「おおマックス。もうこんなに大きくなったのだな」

 顎鬚を触りながらルインスキーはマックスを眺めた。

「アルサミン一家がいなくなったと聞いてな。召喚士殿に挨拶に来たのだよ。別に争いに来たわけではない」

 そう言ってルインスキーはパチンと指を鳴らした。特に何も起きない。

「む……。やはり駄目か」

「ガンホーケンには通じなかったようじゃの」

 慎二は訝しんだ。

「何だ? 何を言ってる?」

「慎二。あれを見て」

 二軒隣の民家の屋根にガンホーケンが立っている。ガンホーケンの隣にはぐったりと倒れている男がいた。

「え? あれガンホーケンじゃないか。何やってんだあいつ?」

「どうやらあそこから合図に合わせて狙撃する予定だったようね。ガンホーケンが気付いて防いでくれたみたい」

 ルインスキーが改めて口を開いた。

「さて、先程も言ったが挨拶しに来ただけだ。今日は見逃してくれ」

「ふざけないで」

 エレーネはナイトを召喚しハルバードを振り上げた。しかしポスクが青いチャイナ服の女をナイトの後ろに召喚すると、女は持っていた青龍刀で馬の後ろ脚を斬り、バランスを崩したナイトは地面に倒れた。ルインスキーがナイトの兜の中に銃を撃ちこむとナイトは消失した。

 今度は赤いチャイナ服の女が突然エレーネの後ろに現れ、青龍刀を振りかぶった。しかし慎二が召喚した兵が女をつかみ地面に押し倒した。慎二がポスクのほうに向きなおり、兵を十体召喚した。突然の大軍の出現にルインスキーは面食らったが、ポスクは目の前に現れた兵の一人の手首を取ると素早く捻り倒し足で背中を踏みつけ、持っていた仕込み杖を抜くとキィンという音が辺りに鳴り響いた。

 ポスクが刃を振って踏んでいる男の首を落とすと、ポスクと青い女は同時に動き、持っている得物で舞うように兵を斬り刻んでいく。動きながらもポスクは自分の右側を敵の体や従者でカバーし、ガンホーケンに狙撃されないように配慮している。

 押さえられていた赤い女も体を捻りながら兵を蹴り上げ立ち上がったが、エレーネが召喚したナイトがハルバードで斬り上げ赤い女は消失した。赤い女が持っていた青龍刀がガランと派手な音を立てテラスの床に転がった。

 慎二とエレーネが一瞬その音に気を取られた隙にルインスキーがポイッと何かを転がしてきた。転がってきたその筒から煙が勢いよく噴き出してきて、視界を奪われるのを嫌がった二人は後ろの入口から店の中に飛び込んだ。左右に分かれた二人は店の中から外を覗くと、煙はますます吹き出し、やがてルインスキー達との間にできた煙の壁が晴れてきた時、二人は消えていた。

「どうやら逃げたみたいね」

「チャンバラが上手い相手だな」

「逃げ足が速いだけよ。今日はもう襲ってこないだろうし、せっかくなんだから二人で飲み直しましょう?」

 マックスはいつの間にか店の窓際でイビキをかいていた。

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